第165話 最強への挑戦
さて、何だかんだで出てきちまったか。
全ての元凶。
「おお、魔極真を制した新星よ。もう既に女神様とお似合いの雰囲気を醸し出しているなぁ。どうだ? 宴よりも二人の時間を過ごしても良いのでは? クロン様もいかがでしょうか?」
やはり、雰囲気が違う。
宴のノリやら、ヨーセイへの怒りやらで熱くなっていた街の連中も急に一歩下がるようにして静かになった。
女神や大神官相手に「頭が高い」というのに気づいたのだろう。
「はい、私もお願いをしているのですが……」
「それは重畳。では、アース・ラガンよ。早速二人で寝室にでも……」
「でも、アースはあまり気が進まないようでして……」
「なんと?」
つか、こいつらもはや公衆の面前だということ……いや、ヤミディレももう自分の都合通りに全てがうまくきたことに興奮しているのかもな。
「アース・ラガン、据え膳食わぬは男の恥。据え膳食われぬは女神への侮辱。さぁ、存分に!」
にこやかに。しかし、空気から伝わってくる。「断ったら分かってんだろうな、テメエ」って言っているようにしか見えない。
もし、俺が断ったら……
「つか、そこのヨーセイ―――」
「ん? なんかいるな。私が処分しておこう。貴様にはもう何も関係なかろう?」
さらりと言いやがって。そして、まるで興味が無さそうに。
ちょっと、複雑な気分だった。
「ああ。俺には関係ねえ。でもな、見苦しかろうと名指しで乱入された以上、後味が悪いから、スッキリさせときてえだけだ。こいつも頭が狂っちまったようだが……叫んだことは……まぁ、本音だろうし」
「……なに?」
ハーレムだとか、恋愛観だとか、そういうのは無視して、一応クロンが好きってのは本当だったんだろう。
で、こんな状態になってまでここまで来た。
サディスのこともあるし、こんなんでクロンとイチャつけなんて心が抉られる。
「ヨーセイ、めでたい席で何をやっている? 敗者が勝者を称えるならまだしも、敗者が見苦しく暴れる姿には不快しかない。失せろ」
「だい……しんかん、さ……」
「それとも、クロン様とアース・ラガンの交わりの音に聴き耳でも立てて自分を慰めるか?」
「ッ、あ、ああああ゛!!」
ヤミディレの容赦ない言葉に頭を抱えながら転がるヨーセイ。
その光景を見て、クロンもようやくヨーセイが視界に入って、少し怯えた様子を見せる。
「あら……これは一体……この方はどうされたのです? ヤミディレ」
「クロン様には何も関係のないことです」
いやいやいや、大いに関係あるぞ? こいつは、あんたが俺に奪われるのが嫌だって……
「ま、まってください、大神官さん! 女神クロン! 俺は……俺はどうなるのです?」
「あ?」
「はい?」
そして、這いつくばりながらも必死にヨーセイは問いかける。
叫べば叫ぶほど哀れにしか思えないその本音。
対してヤミディレは……
「ヨーセイ、貴様に目を掛けてはいたが……期待は特にしていなかった」
「ッ!?」
「だってそうだろう? 才能ある者も才能無い者も、魔極真の者たちは常日頃ストイックに身も心も鍛えていた。まぁ、大半の者が心の中ではマチョウには勝てないだろうと諦めてはいたが、それでも鍛錬は怠っていなかった。貴様のように、相手の力も見抜けず、自身の器も見抜けぬ、努力もしない二流相手に何を期待しろと?」
「で、でも……俺に期待をしていたから、……神薬を! 俺が何もしなくても何も言わなかったのは……俺が何も言わなくても優勝できると信じてたからでは!?」
「ああ、神薬な……まぁ、それでも期待するほど伸びたわけではないと判断したから、後はもう好きにしろと放任したに過ぎない」
「そん……?!」
容赦の欠片もないとは正にこのことだと思わせる言葉。
「ヤミディレ、恐いです」
「ぬっ、クロン様」
「よく分かりませんが、何だかこの人が可哀想ですよ? 体調も悪そうですし」
ヤミディレはヨーセイをゴミでも見るかのように、冷たい言葉をぶつける。
そして……
「ッ……大神官さん……あなたの本音は分かったが……女神クロンの……気持ちはどうなる? クロンは女神でも……一人の女の子! 運命なんか関係なく、好きな男と結ばれたいと思っている!」
これまでの発言が無ければ、とてもカッコいいと思ったかもしれないだろうヨーセイの叫び。
まぁ、この発言には「クロンが俺を好きだから、俺と結ばれないなんてかわいそうだ」と物凄い己惚れた意味があるのだろうが。
すると、クロンは……
「まぁ、あなた、とても優しい人ですね。私のことを気遣ってくださるのですね」
「クロン……」
「はい。実は私も……このことを数カ月前にヤミディレに言われたときは、ちょっと気が重かったです。私、恋とか、男の子を好きになるとか、そういうことは分かりませんでしたが、絵本で読むような素敵な王子様と幸せに暮らすお姫様の物語と自分は違うのだな……と、ちょっと悲しかったです」
クロンは嬉しそうな笑顔をヨーセイに向けた。その笑顔に、ヨーセイは希望を見出したかのように目を輝かせる……が……
「ですから私、今はとっても嬉しいんです。努力家で、強くて、明るくて、友達と楽しそうに笑っている……今日だってとってもカッコよかった。私、すごくドキドキしたのです。そんなアースとこれから一緒に居られる……自由ではなかった私ですが、これからはアースを思う存分好きになって良いのだと、そしてこれからの結婚生活を想うと、と~っても胸がポカポカして嬉しいんです!」
「あ……うぁ……あ……ばか……な……」
色々な意味で俺も、もう見るに堪えなかった。
もう、ヨーセイが叫ばず地中に頭をめり込ませるぐらい絶望してしまった。
「……坊ちゃまの可愛さを一番知っているのは私です…………とはいえ……もう、私には……坊ちゃまを手に入れたければ私を超えていきなさいという花嫁の前に立ちはだかる番人のようなこともできなくなって……やはり……寂しいですね」
サディス、お前はどこで対抗しようとしている。
って、そうじゃなくて。
「待てよ。そもそも、俺がいつ優勝の副賞を受け取るって言った」
「……あ゛?」
「アース……やはり……嫌なのですか?」
俺の発言にヤミディレは素の声が。クロンは少し悲しそうな声を。
だが、これは『最初から』決めていたことだ。
「クロン。別に俺はあんたのこと嫌いじゃねえが……今は結婚までするほどなんて考えちゃいねえ。順序ってもんがあるしな」
「順序……ですか? むむむむ……それは一体……」
「あとな、相手も相手だから俺もあんま同情はしたくねーが……恋に鈍感とはいえ、無自覚に男を傷つけんなよな」
俺の発言に戸惑って、考える様子を見せるクロン。
「鈍感? 坊ちゃまがそれを言いますか?」
『はい、ブーメラン!』
サディスとトレイナが息もぴったり!? なんで!?
まあ……とりあえず、クロンはいい。
問題は……
「大神官ヤミディレ様よ。一応、俺に課せられた課題は優勝までだ。優勝したら、俺は一応解放されるはずじゃなかったのか?」
「……ああ。解放されるな。優勝して……あることを手伝ってくれたら……な。それが、コレであろう?」
俺の問いに対して段々と不機嫌になっているのが分かる声のトーン。そしてビリビリと痛くなる空気。
もうこの空気は、周囲の連中や、ツクシの姉さんたちですら声が出せないほど緊迫した雰囲気になっている。
だが、それでも俺は……
「ただ……これからどうなるかは……俺とクロン……二人の問題ってことにはならねーのか?」
「不能でも男色でもあるまいし、何を気取っている? 黙って、貴様はクロン様と次代の神の創造という名誉ある責務を果たせばよい」
「だけど俺も……ヨーセイほどじゃねえかもだが……人のおっぱ……胸に揺らぐこともあるから疑わしいかもしれねえが……純愛なんでな」
「キサマ……」
「ここから先は、あんたに決めて欲しくない。もしこれが『トレイナ』の意思だというのなら尚更だ。だって、あいつはそんなことをこれっぽっちも考えてないからだ」
「ッ!?」
「それぐらいやらねーと……」
言いたいことは言ってやった。もうここから先は従わないと。
「それぐらいやらねーと、卒業した……俺の初恋の人に申し訳ねえからな」
「ッッ!!?」
こんな簡単に結婚なんてできるかよ。お前ら、俺がサディスをどれだけ好きだったと思ってるんだ?
「坊ちゃま……」
たとえ、かわいかったり、美人だったり、お色気に揺らぐことはあっても、簡単に最後の答えまで出すことはない。
クロンと今後どうなるかは、俺たち次第ということで。
「それとヨーセイのことも……自業自得とはいえ……発端はあんただろ?」
「ぬっ……」
「もう興味ねえとか言わないで、ちゃんと最後まで面倒みてやったらどうだ?」
俺の言うべきことは言ったやった。
すると……
「くだらん。そんな男はもうどうでもいいというのに……貴様も黙ってまぐわっていれば良いものを……大体、神を呼び捨てにするなど……少し仕置きが必要か……なぁ!」
まぁ、当然ヤミディレが納得するはずもない。
次の瞬間、その両目に紋章眼を浮かべて……
「ッ、坊ちゃま!」
「来るな、サディス!」
「ッ!?」
ここから先はもう……自分で選んだこと。それなのに、すぐサディスに助けてもらうわけにはいかない。
それに、こうなるかもしれないことは、「三カ月前」から既に予想していた。
「ジテーンシャカゴツーキシティサイクール……短距離移動魔法マムチャリ!!」
紋章眼と古代魔法の発動により発生した黒い渦に飲み込まれる俺と自らそこに入るヤミディレ。
「アース!?」
「アースくん!」
「おにーちゃん!?」
「あんちゃん!?」
突然のことに戸惑い声を上げる皆。
そんな声もすぐに空間の移動で途切れてしまう。
そして俺たちは、気付けばよく来る浜辺に、向かい合うように立っていた。
『童、酒は?』
『大丈夫、抜けてる』
『そうか、一時はどうなるかと思ったが、それならよし』
『ああ』
『だが、どちらにせよ、正念場ということを忘れるな?』
『あと、対策もな』
そう、途中、おっぱいだったり、ガラにもなくはしゃいだりして忘れかけてはいたが、元々こうなることは考えていた。
俺もトレイナも大して驚くことも慌てることもせず、お互い確認し合う。
「やれやれ……まぁ、意識が無くとも下半身さえ反応すればよいからな。言うことを聞けば美味しい思いをさせてやったのだが……手荒に行くぞ?」
そんな俺の前には圧倒的な威圧感を出して俺を威嚇するヤミディレ。
そう、俺は今日、俺の人生史上最強の『現実』と戦うことになる。
ただし、夢の中ではこれより強い奴とずっと戦ってきたんだけどな。
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