第149話 負ける気がしねえ
普通、強くなるなら歯を食いしばって時間をかけて行うもの。
それを激痛と引き換えにすることで、短時間で強さを得られる?
どっちがつらいかとか、どっちが強いかとか、どっちが正しいかはどうでもいい。
重要なのは、マチョウさんは更に強くなったということ。
「大魔ソニックジャブ!」
「ふふ、今の自分に臆すことなく、まずは試すか。流石だな」
まずは、速さ重視の左ジャブの衝撃波を連発して飛ばす。
そして、飛ばした衝撃波がマチョウさんの肉体に触れるも……
「良い左だ……だが、もう自分は貫けぬぞ?」
「へぇ~」
硬い。触れなくても、違いが分かる。
さっきとは衝撃波を当てた手ごたえが明らかに違う。
より、硬質で高密度の筋肉になったってことか……でも……
「大魔ソニックフリッカー!」
皮膚への攻撃ならどうだ?
鞭のように叩き、刃のように切り裂く衝撃波は……
「魔極真スピアタックル!!」
だが、マチョウさんは構わず俺の拳の連打に突進し、被弾しながらも突き進み、低い姿勢から両腕を伸ばして俺を捕らえようとタックルしてきた。
しかも、そのダッシュ力がさっきよりも上がっている。
「ぬおっ、と……」
俺は咄嗟にステップで右サイドに回りこんで回避。
さっきは、正面から迎え撃ったものだが、今は迫り来るマチョウさんのタックルに、思わず避けちまった。
「ふっ、流石に素早いな。捕まえるのは骨が折れ、ぶっ!? がっ!?」
「大魔ソニックワンツー!」
だが、確かにスピードは上がったが、それでも俺に及ぶ足じゃない。
回りこみ、隙だらけのマチョウさんの顔面に直接左と右のワンツーを当ててやった。
「へっ、回復が速いつっても、痛みがないわけじゃねーし、急所が変わってるわけでもねーだろ?」
「ぬっ、ぐっ……」
「そして、音速を超えたパンチで打たれ続けて、意識が保ってられるかな?」
「ッ!?」
ダメージと共に強くなるなら、気絶させちまえばいい。
俺のワンツーで顎を打たれて、両足が僅かに揺らぐマチョウさん。
そして、完全無防備となった今、とにかく叩き込む。
「大魔ソニックラッシュ!!!!」
「ぬ、お、おおおおおおおお!?」
左右の音速連打。マチョウさんの顔面を絶え間なく打ち続ける。
「大魔ソニックソーラープレキサスブローッ!!」
「くゅっ!?」
「大魔ソニックハートブレイクショット!」
「ガッ……ッ!?」
顔面への連打で意識を上に集めてから、がら空きになったボディ……みぞおちに音速の拳を叩き込み、次に心臓まで打ち抜いて完全にマチョウさんの動きを止めて……
「果てまでふっとべ! 大魔ソニックスマッシュ!」
「ッッッ!!??」
どんな生物も顎を打ち抜かれたら意識を失うはず。
完全にバッサリと、最高の角度、最高のタイミング、最高の力を叩き込んでマチョウさんを顎だけでなく、体ごと天高らかに打ち上げた。
「は、速い! つ、強い! あのマチョウを乱打で圧倒! これが……これが超新星・アース! ついに本気を出した新星の強さに、もはや言葉もありません!」
司会の言うとおり、状況だけ見たらマチョウさんが俺に手も足も出ずにふっ飛ばされたように見えるだろうな。
でも、手ごたえはあったが、想像していた感触とは違う。
想像以上に硬い。
「確かに……とてつもないラッシュ……試合開始時の自分なら、完全に意識が断ち切られていた……だが……耐え切った!」
「ちっ……」
「ゆくぞ、魔極真フライングボディアタック!!」
空中にふっとばされるも、すぐに体勢を整えて、マチョウさんは俺に体をぶつけるかのように落下攻撃をしかけてきた。
つっても、それもまた俺からすれば遅い攻撃。
軽くバックステップで回避する……が……
「うおっ!?」
マチョウさんが地面に落下した瞬間、強烈な地響きと共に闘技場中央に巨大な亀裂と穴ができてしまった。
あまりの破壊力に、ちょっと冷たい汗が俺の頬を流れた。
「これは驚きました! マチョウ、大ダメージを受けたはずが、またもやすぐに回復してからの反撃! これにはたまらずアースも回避しましたが……とんでもない威力です!」
確かに、まともにくらったら、ちょっとヤバかった。
だが、俺にとっての問題は、反撃したマチョウさんの攻撃力よりも、今のラッシュでマチョウさんの意識を断ち切れなかったこと。
「タフとかそういうレベルじゃねーな……」
流石に打たれ強すぎる。同じ人間かと疑いたくなるぜ。
『確かにそれなりのスピードを持った攻撃だったが……やはり、来ると分かっている攻撃は耐え切るようだな』
そのとき、俺のラッシュを耐え切ったマチョウさんを見て、トレイナがそう呟いた。
『この男、これまでの人生でほとんど攻撃を回避したり、防御したことがないのだろう。それは、この男のタフさというよりも……ここぞというときの覚悟のタイミングを習得させたのだろうな』
『覚悟のタイミング?』
『降りかかる攻撃に対して、一瞬でいい。『絶対に意識を保つ』と強く自分に言い聞かせて、これでもかと歯を食いしばる……ただの根性論、精神論ではあるが……ソレが自分の肉体を支えるということは、確かにあるのだ』
攻撃をくらう瞬間に覚悟を決めて耐える。そんな精神論……と思いつつも、どこか納得できた。
覚悟を決めて耐え切る?
そんなの俺もこれまでのトレーニングでも、そしてアカさんとの殴り合いでもそうだった。
タフさではなく、覚悟。
ましてや、マチョウさんはそういう戦いをこれまでの人生でずっとやっていたのなら、確かに納得かもしれねえ。
『なら……マチョウさんの意識を断ち切るには……』
『一つは絶命させることだな。かつて、魔巨神ゴウダは、再生・回復も敵わぬほどの強烈な一撃で、『貴様の父親』の手によって塵一つ残さずに敗れた。貴様の攻撃でそれが叶う技は……』
それだけの破壊力を秘めた技は……『大魔螺旋』しかない……が……流石にそれはな……
『それ以外ならば、相手が覚悟をする瞬間をズラすこと……相手の意識が無防備なところ……警戒も意識もしていない攻撃……思考の死角を突く攻撃をすることだ』
『思考の死角?』
『そうだ。覚悟云々は所詮、心と脳のこと。ならば、脳が予測していないことに、体は反応できん』
そんなトレイナの言葉を聞いて、頭の中に思い浮かんだのは一つのパンチ。
思考の死角を突く攻撃。
すなわち、見えないパンチだ。
大魔ファントムパンチ。
問題なのは、マチョウさんは攻撃が全部大振りで荒い。
しかし、それは逆に全ての攻撃のタイミングや角度やスピードが毎回バラバラなので、カウンターが取りづらいということか。
失敗すれば、大ダメージ。
だけど、俺は不思議と恐怖は無かった。
「どうしてだろうな。失敗する気がしねえ。つか……負ける気がしねえ」
自信が俺を満たしていた。
恐らくそれは、この試合の前に実戦で一度成功させているから。
ワチャとの試合は無駄じゃなかった。
あれがあったからこそ、俺は自信を持って挑むことができる。
それに……
「頭がスーッとして……集中力を高めていたら……なんか、分かっちまったかもな」
『童?』
「超魔回復……意外と、デメリットも大きいなってことだ」
トレイナすら驚愕したマチョウさんの能力。スキルって奴か?
だが、そのスキルも今の俺には脅威よりも、弱点のほうが目にいった。
「多分これも……あんたとの日々が無ければ、そう思わなかったんだろうけどな……」
『そうか……』
「見せてやるぜ! 薬も、スキルも、才能も……地道な凡才が蹴散らしてやる!」
そして、俺は『入った』。
ブレイクスルーをしたまま、ゾーンの状態に。
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