第131話 紹介

 各道場の代表者に加え、ヤミディレらの推薦で出場する外部出場者含めて計16名で覇を争う大会。 

 そのトーナメントの組み合わせ決めのクジ引き。

 しかし、御前試合の時のように大観衆の前でクジを引くということは無く、まずは控え室のような所で クジを引いて、その後で集っている客に発表という流れのようだ。


「はい、マチョウ・プロティーン。16番。一回戦、第八試合となります」


 次々と出場者がクジを引いて、空欄のトーナメント表に名前が埋められていく最中、俺は御前試合の時の事を思い出した。

 あの時は、リヴァルと戦うために俺はクジ引きをひっくり返して番号を選ぶということをやり、そして1番の数字を引いた。

 だが、今度は……


「次、アース・ラガン」

「押忍。んっ、と……おっ……1番」

「はい、アース・ラガン。1番。一回戦、第一試合で、ヨーセイ・ドラグとの対戦となります」

「……はは」


 今度は自力で引いた。同じ番号を。

 しかも相手は例の奴か。


『狙っていたか?』

「できれば……て感じでな」

『ふふふふ、自ら引き当てる。それもまた、運でもあり、力でもあるな』


 トレイナもニタリと笑っている。なかなか、機嫌がよさそうだ。


「ふん」


 そして、対戦相手の奴は、俺と一回戦からぶつかると分かった瞬間、明らかに不愉快そうな顔をした。


「へへ」


 だが、俺はこれでよかった。

 だって、下手に奴がマチョウさんとかと一回戦で当たったりしたら、俺がこの手で殴れなかったからな。

 油断する気はねえ。

 だが、相手の実力は大体分かっている。

 だから、弱いものいじめを俺もする気はねえ。

 ただ、一発殴ってやらないと気が済まないだけだ。


「さて、ではこれで対戦表が決まりました! 対戦はこの通りになります」


 そして、出場者全員がクジを引き終わり、出来上がった対戦表が壁に貼り出された。




『魔極真流闘技大会・組み合わせ表』


●第一試合

・アース・ラガン(外部)

・ヨーセイ・ドラグ(外部)


●第二試合

・ヤワラ・セオイ

・グランシャリオ・ナナホシ(外部)


●第三試合

・クロオビ・セイケン

・ジュウジュ・ブラジリア


●第四試合

・ワチャ・ホワチャ

・ハリダシ・ツパリ


●第五試合

・ダンショク・ヤール

・ショタァーオ・ハニカミ


●第六試合

・サミング・ペナルテ

・セイセ・ドウド


●第七試合

・リロン・デイタ

・ビグ・マーラ


●第八試合

・カバ・カヴァディ(外部)

・マチョウ・プロティーン



 マチョウさんと当たるのは、決勝か。

 ある意味で、理想の組み合わせだな。他の連中はよく分からんが。



「では、この対戦の順に司会の者が皆を紹介するために呼ぶので、一度闘技場に全員出てもらう。そして、その後で開幕の一回戦第一試合の二人はそのまま闘技場に残り、試合をしてもらう」


「押忍」


「はぁ」


「先に言っておくが、ルールは相手を殺傷する以外は何でもあり! 説明は以上! 健闘を祈る!」

 


 なかなかシンプルなルール説明だった。御前試合にはいくつかあったような気がしたが、とにかくこっちの方が純粋な闘争のような気がした。


「ふふ、自分とお前は完全に逆の山になったな」

「ああ。約束どおり、決勝で会えるな!」

「……ほう……」


 大会関係者が説明を終えたとき、マチョウさんが俺に話しかけてきた。

 確かに、完全に逆だ。だが、俺はそれでよかった。

 そしてついに……



「えー、皆様! このたびは魔極真流闘技大会にお集まり頂き、誠に有難うございます!!」



 ようやく外でも開催の司会が始まった。



「これより、この国の武の頂点を決める16名の男たちによる大会を始めたいと思います! どうぞ、最後まで御覧ください!」


「「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」



 なかなかの盛り上がり。帝都ほどではないものの、熱気は負けてねえ。

 少しだけ地面が揺れているように感じる。



「では、出場する男たちを対戦順にご紹介します! 男の中の男たち、出てこいやー!!」


「「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」


「では、まずはこの男!!」



 迸る熱気が俺の肌を打つ。これで熱くならなきゃ嘘だってもんだ。

 冷めた顔して「やれやれ」みたいな顔をしている、これから俺にぶっ飛ばされるクン、そもそもテメエは男か??


「おっ、アース君だ! ファイトかなー!」

「あんちゃん、いけっすー! 私との『特訓』の成果も見せてっす!」

「がんば、がんば、がーんば!」

「が、がんば……ってください」

「いけー、アースくん!」

「オラァ、ぶっとばせー!」

「がんばれー!」

「アース君、ファイトなんだな!」


 そして、俺が闘技場に足を踏み入れた瞬間、観客席の一部から大盛り上がりの声。

 みんな、見に来て応援してくれているようだ。

 ん?


「あははは、ちょっと恥ずかしいかな?」

「いや~、いいじゃないっすか、アネキ。大神官様も応援はこれが正しい服装って言ってたっしょ?」

「がんば! がんば!」

「ちょ、ちょっと恥ずかしいですが……」


 あれは?! 御前試合でサディスが俺を応援していたときに来ていた服と同類!?

 両手に「ぽんぽん」とかいう玉房状の道具を振り、青色のノースリーブに短いスカートを穿いたシスターのお姉さま方+サディス。

 おおっ、アマエまで。


「ふふふ、アースです」

「クロン様、手を振ってはなりませんよ?」

「分かってます~。アースだけでなく、今日は皆を公平な目で見守るのです!」

「ご立派です」


 そして、観客席の最上部にはヤミディレを傍らに控えさせて、玉座のようなデカい椅子に座っているクロン。

 一瞬、笑顔で俺に手を振りかけたようだが、ヤミディレに注意されたのか、すぐに手を引っ込めた。



「突如現れた彗星は、凶兆か、それとも未来を作る希望となるか! 道場で叩き出した数値はどれもが歴代トップクラス! そして、あの最強マチョウともスパーを行ったという未知の強豪! その本気の力、今こそ見せてみろ! 『超新星』アース・ラガン!」



 そして、大歓声と共に俺の……紹介かコレ!? 誰が考えた!? 

 でも、観客はとりあえず大盛り上がりの様子なので、とりあえず出た。

 そして、目の当たりにする、会場を埋め尽くす民たちの大歓声。

 いい感じだ。

 でも、この紹介、まさか全員にやるのか?

 


「ついに噂の天才がベールを脱ぐ。魔法学校のあらゆる記録を塗り替えて、教師すら知らない新たな魔法も生み出すこの男の物語はまだ始まったばかり! 新たなる伝説をその目に焼き付けろ! 『天賦の大賢者』ヨーセイ・ドラグ!」



「剛が力の頂点に立つ時代はもう終わり! 力無きものたちよ、俺に続け! 力を滅ぼす、『滅力戦士』ヤワラ・セオイ!」



「かつて男は国の星だった! 旧体制は敗れて革命は成った。しかし、俺はまだ負けちゃいねえ! 主を失えど、牙までは失っちゃいねえ! 『亡国の反逆剣士』グランシャリオ・ナナホシ!」



「手にした拳は、力であり、技であり、そして道である! 魔極真のあらゆるジャンルに脇目も振らず、ただ一つの技を追求し続けた男! その拳がついに解禁される! 『破壊拳士』クロオビ・セイケン!」



「何でもありの最強なら、やらなくても分かるだろう? 大会をやる意味が分からない。と、豪語した! 投げるも、絞めるも、殴るも、蹴るも、魔極真最強はこの俺だ! 『格闘万屋』ジュウジュ・ブラジリア!」



「歴史の重みを教えてやろう! 魔極真道場最古参の男が立ち上がる! お前たちの技なんて、俺は10年前に習得している! 普段はマジカル・タイチー健康法の指導で主婦の味方。しかし、今日はお前らの敵! 『歴戦戦士』ワチャ・ホワチャ!」



「技術? 筋肉? 必要なのは、体のデカさ! そして、体のデカさは生まれ持っての才能! 神に選ばれなかった痩躯な戦士たち、今、現実を見せてやろう! 『超重怪人』ハリダシ・ツパリ!」



「誰だああああ、この男の参加を許したのは! いつシャバに出たああ!? とある犯罪で監獄に閉じ込められていた魔極真道場の面汚し! しかし実力は本物! 大神官様は何をお考えに? 『洞穴探求者』ダンショク・ヤール!」



「かつて、門下生が少なすぎて潰れそうになった支部に、この男が入った瞬間、入門希望者大殺到! 気になるのは門下生のほとんどが女ということ! 師範代が門下生にかわいがられる毎日とか、仕事ちゃんとしろ! うらやましいぞ、この野郎! 『小さな巨人』ショタァーオ・ハニカミ」



「誰よりも勝利を欲する! その執念ゆえ、この男とは誰もスパーをやりたがらない。しかし、俺は構わない。必要なのは練習相手じゃねえ。必要なのは、ただ勝利のみ! 『勝利の渇望者』サミング・ペナルテ!」



「人は、生きるうえでルールがある。そのルールを守るのが正義である。内戦を知らぬ子供たちに正義の大切さを説き続け、そして今日は正義の力を証明するために男は立つ! 『正義の味方』セイセ・ドウド!」



「これからは、頭を使うのが新時代の力。そして既に分かっている。俺が優勝することを。それは予告ではなくもう予言。さあ、それが実現するか見届けようではないか! 『絶対預言者』データ・リロン!」



「打倒マチョウに燃えるこの男! かつて風呂場でマチョウと遭遇して以来、男は長く山に篭り、そして機は熟したと帰ってきた! 男は言う! マチョウよ、最大の男を見せてやる! 『象徴山岳』マーラ・ビグ!」



「ついに登場! 旧体制派でも革命派でも、魔極真の門下生でもなく、一人でオリジナルの武を開発した男! 今まで誰もがその男を見なかった。しかし今日は誰もがそれを見ずにはいられねえ! 見せてもらおう、誰も知らない新たな武を! 『新武術開祖』カバ・カヴァディ!」



「そしてそして、ついに来たこの男! 溢れんばかりの男気、力、そして逞しさ! 男が抱かれたい男ナンバーワン。子供たちの将来の夢ランキングでもマチョウさんみたいになりたいと言われるほどの大人気。まさに男の中の漢! 『超人』マチョウ・プロティーン!」



 なんか、最後まであのテンションでやりきったよ。すげーな、あの司会。



「以上! この16名の男の中の男たちが最強を争います! テメエら、その目にしかと焼き付けろオオオオオ!!!!」


「「「「ウオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」」」」


「そして、早速第一試合だ! 共に外部出場者! しかしその才能は次世代の筆頭! 『超新星・アース』対『天賦の大賢者・ヨーセイ』の試合だ!!」



 ま、いずれにせよ。最高潮だ。


「キャー、いきなりヨーセイからじゃない!」

「しかも、まさか1回戦からあの人」

「らくしょーっしょ!」

「ヨーセイくん、優勝だからね!」

「先輩! 落ちこぼれ男子たちを束ねていい気になってる井の中の蛙に、思い知らせてやってください!」


 あっちも、トドメとばかりに最後の最後まで俺の心を見事にむかつかせてくれる。

 もう、ゴングが待ちきれないぜ。

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