第74話 乱痴気騒ぎ
やべーよ、あたまがくらくらするのだぜ~
「うい、あ~、あちゅいんでしゅ! あっちっちのちー!」
でも、なんだか気分がアガッてきて、なんだろう。
今なら何でも出来る気がする。
「あ~あ……ったく」
「なんらー、ブロー! おまえ、な~んですわってるんですか!」
「まさか一杯でこれとはな……カッカッカ、若いじゃねえの」
おう、ハイテンションタイム! つか、なんで皆静かなんだよ!
「おおい、おめりゃ! 飲んでねーのか、バカティンが!」
ったくう、これじゃあ踊るしかねーじゃねえかい!
「おっ、はははは、なんか、あのガキがやるみたいだぜ!」
「坊や~、まだ全部脱いでないんじゃないの~?」
「そうそう、お姉さんたちがパンツを脱がしちゃおっかな~!」
なにい? 俺の服を脱がすのは誰じゃ?
そんなのサディスだけだったのにい!
「うっ、うう……サディス……」
そうだ、サディスが最後に俺の服を脱がしてくれた……なんさいだっけ?
『さっ、坊ちゃま、バンザイしてください』
『ん』
『こんなに汚して……さ、入りましょう。ゴシゴシ洗って差し上げ……坊ちゃま?』
『じ~……』
『あっ、んもう、坊ちゃま。私の胸を見てどうされたのです?』
『サディスの胸……おっきくなった?』
『……坊ちゃま……この肉に興味を持たれるのはまだ早いですよ? ……そういうの、えっちっち、っていうのです』
『えっ? お、おれ、えっちっちなの? それだめなの?』
『はい、えっちっちな坊ちゃまは嫌いです……じゅる……っ、涎が……まだだめです、まだだめです、クールになるのです私……食べちゃダメ……』
『違う! お、おれ、えっちっちじゃねーもん! えっちっちじゃねーし!』
そうだ、俺はえっちっちじゃないから、サディスとももうお風呂入んないって恥ずかしがって……俺の馬鹿やロウ!
「俺のバカ! おれ、えっちっちじゃねえかよ!」
「「「急にどうした!?」」」
そうだ、俺はえっちっちだったんだ。だから、それを認めればよかったんだ。そしたら、もっとサディスとお風呂に入れたんだ!
何でおれ、もっとあのときに、サディスの体を詳しく見てなかったんだよ!
「えっちっちな俺はステップします! ほわ~~~……蝶のように舞う!」
「「「こいついかん! ……でも、体がメッチャキレてる!!」」」
そうだ、蝶のように舞って、蜂のように過去の俺にパンチだ!
「カッカッカ、いいね~、ここまでベロベロに酔った奴は久しぶりに見たな……じゃあ、そっちが魅せるなら、俺も元凶として付き合うか」
「ん? なんらー、ブロ! お前に俺のステップこえられるか! 俺のすてっぷは、世界一頼りになる、俺のサイコーの師匠から伝授された、マジカル・フットワークなんだぞー!」
『ぬっ!? ……ぬっ、た、頼りに……世界一……ふ、ふん! こ、この酔っ払いめ……そんなつもりで教えたわけでは……というより、ふ、不意打ちとは小癪なやつめ……』
そうだ、俺とトレイナのマジカルフットワークから繰り出すステップは世界を獲るんだ。
「カッカッカ……じゃあ、俺は……『魔極真カポエイラ』を見せてやろうかな」
『ぬっ!? か、カポエイラ……!? どうしてそれを……やはり、こやつ……魔極真とはひょっとして……おい、童! 正気に戻れ! ちょっと大事な話が!』
カポカポ~? なんら、そ……なにいいいっ!?
「きたー! ブロのカポエイラ! 蹴り主体の格闘と踊りを混ぜたかのような動き!」
「すてきー、ブロー! あとで、シようよー!」
「おら、負けんなガキ!」
「ボク、がんばれ~!」
すごい、つか、カッコいい? なにそれすごい! 床に手をついて足をあげたり、体をグルグル回したり、イカす!
「さらに、カポエイラからの~……魔極真旋廻!」
「「「「キターーーーーッッ!!!!!」」」」
「なにしょれえーーー!」
しゅごい! 今度は逆立ちしたと思ったら、そのまま潰れ、背中で床の上をグルグル回ってる?
『ぬっ……これは……マジカルブレイクダンス……か……』
なにそれカッコいい!
トレイナに教わったものよりカッコいい?
『……むっ!? おい、童……酔っ払っていようが心の中は筒抜けぞ? ……余が教えるものの方がカッコいいわ! そもそも、ブレイクダンスとて元々は余が……』
「あるえ? おこっ、ひっく、おこっちゃ、や~。ぷんぷんトレイナ嫌いになっちゃうぜい?」
『……………貴様というやつは……は~、仕方ない。余が、貴様にカッコいいステップを教えてくれよう! かつて魔界にて、キング・オブ・ポップと呼ばれた余のパフォーマンスを!』
「うい?」
『あらゆるステップをマスターした器用な貴様なら、できるはず!』
あれえ? トレイナまでなんか踊り出した? んーん、歩き出した?
『このように、前に歩いているように見せながら、交互に足を後ろに滑らせる……』
「ふぁっ!?」
『これぞ、『大魔バックスライド』! 通称、ムーンウォークだ』
「しゅ、しゅごい! やっぱり、トレイナの方がカッチョイイ! だいすきだぜ!」
『ふふん、そうであろう。カッコいいであろう!』
トレイナが、胸張って「どやぁ」ってやってる。
でも、しゅごかった。かっこいい! これなら俺も勝てる!
「おい、坊主! さっきから壁に向かってぶつぶつ独り言を呟いてどうした?」
「君の負けでいいのかなー?」
いいはずない。ちゅか、今は習ってる最中だから、シーだろ!
『さあ、ボンクラ共に見せてやれ! 普通は練習が必要だが、貴様なら1分でできる。足の運びや体重移動の感覚が人より優れているからな』
「ふぁい!」
『最初は片方の足をつま先立ちにし、重心をかける。そのまま反対の足をスッと後ろに……その際、カカトを上げるな。それを交互に繰り返し……』
「ふぁい! あらよっと、スイスイスイ~!」
あっ、できた。
『よし、そこで高速でスピンだ! そして、叫べ!』
「アオッ!」
うあ、あひ、世界が回るぅぅぅ!
「なっ、おおお、お前さん、何だそれは! ははは、すげ! かっこいいじゃねえの」
「うお、おおお、まるで重力を感じさせない、何だあれは!」
「無重力のステップ!」
「く~、私もムラムラしてきた! 夜にはまだ早いけど、巨乳ポールダンサーとして、私の魅力をボクに……あれ? ちょ、誰よ! なんか、ポールがいつの間にか全部折れてるんだけど!?」
「さすが、私のハニーね! 素敵すぎるわよ……これ以上私を惚れさせてどうする気? 確か女からの強姦は罪には……」
気持ちいい歓声だ。ああ、みんなが俺を見てる。もっと熱くなってきた。
「カッカッカ……こりゃ、まいったな。……痛めた膝も、もう限界だし……どうやら、イケてるダンスはお前さんの勝ちだ!」
「うひー! ばんざいなのらー!」
どうだー! まいった言わせたやーい! 俺とトレイナの勝ちだぜ!
「なっ、ぶ、ブロが負けた!」
「くそ、だが、ブロをダンスで負かしたぐらいでいい気になるな!」
「そうだ、あいつはグレン隊の中でも最弱のダンスだ!」
だが、ブロが負けを認めたってのに、バケット頭たちがまたシャシャリ出てきやがった。
こいつらまで俺に挑む気か?
「いくぜ、お下劣なダンスならどうだ!」
「んひ?」
「さぁ、行くぜ!」
ああ、バケット頭が俺と同じように脱ぎ出した。
すっぽんぽんぽんすっぽんぽん!
でも、別に男の裸は何とも思わん!
「きゃー! あいつったら!」
「ってことは、久々、『アレ』を見れるな!」
「ああ! とってもヨカティンだ!」
なにちん? ん? バケット頭が酒瓶を股間に当てて……ええい、なら俺だってパンツも脱いじゃうもんな!
「お、おお、てめえ、なかなかの度胸だな!」
「うおおお、あいつも脱いだぞ! だははは、いいぞー!」
「きゃ~、か~っわいいー! ぷぷ、被って……」
「カッカッカッカ……あ~あ……」
『ぶっ!? こら、童、貴様何をしている! ぷらぷらをしまわんかァ!!』
「ちょ、ダーリン! はあはあはあはあはあはあはあ、私、クールになるのよ。落ち着いて、形、サイズ、更には膨張時の大きさを想定して脳裏に焼き付けるのよ! シミュレーションできるように!」
当たり前だ、ふりょーなんかに負けてたまるもんか。
喧嘩は引いたらダメなんらから!
俺も落ちてる空き瓶を拾って股間でプラプラさせて……
「「「「は~、あっそーれ、ヨッカティ~ンティン!!!!」」」」
あれ? そーいや、俺がマッパを人に見せたのは……サディスと、トレイナ以外は初めてだな……
でも、もう一つ初めて……
俺、こんなに楽しく騒いだの初めてだ……
「おいーっす、ブロはいるか~? って、なんだ~? 今日はずいぶん盛り上がってんな? 『オークション』開始までまだ時間あるってのに……」
「おう、お前も来たか。そうなんだよ、ちょいと面白いやつを見つけてな」
「見ない奴だな……」
「ああ。家出少年らしいぜ?」
あれ? なんだ~、もう、また新しい奴らまで来て。いいぜ、どいつもこいつも、かかってこい!
「ふ~ん……あ、そうそう、家出といえば、さっき帝都から来た商人に聞いたんだが……」
「ん? 帝都?」
「なんでも、帝都で勇者の息子が家出したとかで、大騒ぎらしいぜ?」
「なに……?」
「あの勇者ヒイロと勇者マアムの息子らしくてな……両親が手分けして捜索してるがまだ見つからないらしくて、近々勇者マアムが直々にここにも来るみたいだぜ?」
「……ほう」
「ひょっとしたら、勇者の息子がこの街に来ている可能性もあって、発見して保護すりゃ褒美ももらえるかもしれねーって話だぜ?」
「ふ~ん……」
「あの裸踊りしているガキは……って、んなわけねーか。多分、勇者の息子っつったら、あんな下品で育ちの悪そうなガキじゃなくて、きっと、品の良い奇麗な服着た賢そうなお坊ちゃまなんだろうしな」
ん? 新しく来た奴はカウンターに座ってブロとそのまま、だべってる? ま、戦う気がねーなら、俺は踊るだけだ!
「勇者の息子か…………ふっ………そうか……そういうことか……『師範』には教えられねーな……」
「ブロ?」
「残念だが、『勇者の息子』なんて……俺は知らねえし、見てもいない……俺が見つけたのは、『新しいダチ』だけだ」
さあ、まだまだ俺はこれからだぜ!
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