第55話 忍の戦い方
ジョーニンってのがどういうものかは知らないが、シノブのこの余裕ぶりから、少なくともさっきの二人よりは強いってことだろう。
ジョーニンってのが仮に帝国でいう上級戦士クラスなのだとしたら、確かに俺も気を引き締めなおさねーとな。
「さあ、とっとと来やが―――」
迎え撃つつもりで俺が身構えた瞬間、俺の眼前には形状の珍しい小刀が迫っていた。
「ぬおっ!?」
「流石にいい反射神経ね。さあ、もっといくわよ!」
「ちょ、おまっ、っ!?」
体術でも剣術でもない。ただ、小刀を飛ばすだけ。
投げナイフ術? しかし、こいつ何本持ってんだ!?
『小刀でもナイフでもない。アレは……『クナイ』と『手裏剣』だ』
「な、なんだそれ!」
『忍者戦士独特の武器だ。気をつけろ! 目に見えるモノだけに反応するな!』
「つ、こ、の、あぶねえな!」
『後ろだ、童!』
目に見えるモノだけに反応するなって……っ!?
「えっ、ま、丸太っ!?」
クナイとかいうのを回避していたら、背後から迫る何かの気配を感じ、俺が振りかえった瞬間、ロープでくくられた大きな丸太が俺に向かって振り子のように襲い掛かってきた。
『トラップだ、童。あの小娘、貴様が二人の忍者を相手している間に、トラップを仕掛けていたのだ』
おいおい、罠って……だが……
「舐めんな、俺ぁ罠にかかる獣じゃねえ! こんなもん!」
正面から飛んでくるクナイと大きな丸太。挟み撃ち。だが、全て打ち落とす。
半身に構えて正面のクナイの腹を全てフリッカーで打ち落とし、迫り来る丸太は握り締めた右拳のスマッシュで迎撃。
腰の捻りを加えられないから手打ちになって威力は落ちるが……
「小さな刀と丸太ぐらいを吹き飛ばすぐらい、わけねーん……っ!?」
『二の矢だ、童!』
その瞬間、俺は「眼に映った」クナイと丸太を迎撃した瞬間、それぞれ最初の攻撃に重なって隠れていた、時間差の同じ攻撃に気づかなかった。
「がっ!? いっ、てぇ!!」
突き刺さるクナイ。頭を打ち付ける丸太。反応したが逃げ道なく、迎撃できず、結局くらっちまった。
「んのぉ、こしゃくなことを……あれ?」
痛みで怯みそうになるが、耐えて倒れず、次は俺の反撃を……と、思ったら、今の今まで目の前に居たはずのシノブが居なくなっていた。
「水遁忍法・霧風の術」
そして、姿の見えないシノブの声が響き、同時に森を覆うような深い霧が俺の視界を奪っていった。
「な、なんじゃこりゃ!?」
『所謂、霧隠れという技だ……気をつけろ。相手は上忍。この霧の中でも貴様の動きや居場所は丸分かり。霧に隠れて攻撃が飛んでくるぞ?』
「んな、ま、マジか!?」
ヤバイ、そう言っている間にもどんどん霧が濃くなっていく。
あたり一面真っ白になって、ほとんど何も見えねえ。
もし、こんな中でさっきのクナイとかが飛んできたら?
強烈なニンジュツとやらが飛んできたら?
「ちっ、コラああ、卑怯だぞ! 出てきやがれ!」
これじゃあ、動体視力も周辺視野も関係ねえ。何も見えないんだから。
しかし、そう叫ぶ俺の声にもシノブは答えない。
声を出して自分の居場所を教えるようなバカなことはしないってことだ。
そして、声の代わりに……
『童!』
「ん? ぐおっ、つ、うおっ!?」
クナイが返事の代わりに飛んできた。腕に、肩に、足に数本突き刺さり、肌を切り、俺を痛めつける。
正直、当る寸前にならないとクナイの姿は見えない。
そして、見えた瞬間にはもう遅い。
いくら俺の反射神経や動体視力でも、これを回避するには限界がある。
「ぐっ、そこかぁ! 雷属魔法・キロサンダー!」
それでも刺さったクナイの箇所から方角は分かる。
クナイの飛んできた方角向けて落雷を落とす。
だが、手ごたえがねえ。回避されたか?
『闇雲に撃つな。奴は移動しながらクナイを投げている。勘でやっても捉えられはしない』
「くそ……あの女ぁ、見た目の割には随分とセコイ手を使いやがって!」
『落ち着け、童。これが本来の忍。これが忍者戦士だ』
「な……にい?」
これが「忍者戦士」と告げるトレイナの言葉は重かった。
『忍に必要なのは強さではない。目的を達成すること。戦闘に勝つことではなく、相手を殺すことを第一とする。それが奴らのスタイルだ』
「マジかよ……」
『だが、一方で貴様はあの小娘を卑怯呼ばわりしているが、まだ気遣っているほうだぞ?』
こんな隠れてコソコソするような戦い方に文句を言う俺の甘さを指摘しつつ、トレイナは更に言う。
『もし、あの小娘が自身の武器に致死性のある毒を塗っていたら、もうその時点で勝負が着いていたのだからな』
「っ!?」
『上忍が毒を常備していないはずがない。つまり、貴様はまだ手加減され、気遣われているということだ』
ゾッとするようなことを言いやがる。
つまり、殺すつもりなら俺はもう殺されていてもおかしくないということだ。
こんな簡単に死ぬ可能性があった?
いや、可能性どころじゃねえ。今だってクナイが急所に当たっていれば?
冗談じゃねえ。
「手裏剣多重分身の術」
「あ………つ、何度も食らうか! ……え?」
眼前に現れた手裏剣。今度は割と早く気付いて拳で撃ち落とそうとするが、俺のパンチが手裏剣をすり抜けた。
幻? かと思えば、手裏剣の影に隠れて放たれていた第二の手裏剣が今度は俺の体を突き刺した。
「いっつ、な、なんだ? どーなってんだ?!」
『手裏剣分身……手裏剣の分身と本物を織り交ぜた攻撃だ。今の童では見抜くのは不可能だな』
「しゅ、手裏剣分身!?」
卑怯すぎるぞ! ただでさえ姿も見せず、視界も奪い、更には本物と偽物の攻撃を混ぜるなんて、どうやって避けろってんだよ。
「くそ、出てこーい! ツルペター、貧乳ぅぅぅ、大平原ッッ!!!」
『無駄だ。忍は感情をコントロールすることもできる。日常生活の私情をこのような場面に持ち込まない。ある意味で、ヒイロ以上に空気の読めない奴らだ』
「いた、ぐ、いで、や、ぬおっ!?」
『そして、先の二人の中忍との戦いで、貴様の拳の威力を目の当たりにしている以上、間違っても間合いに入るようなことはせんさ』
胸を気にする女だった。挑発したらどうだ?
だが、結局何も変化が無い。
飛んでくるのはクナイや手裏剣とやらだけだ。
「いっ、つ、ぐっ……こうなったら……ここから離れて……」
ダメだ。避け切れねえ。反射的に首や手首とかはガードしてるが、このまま体中に刺さったらヤバイ。
一旦ここは退くか? 霧が覆われてない所を目指してダッシュして、一旦霧から抜けられないか?
「土遁・岩飛礫の術」
「ッ!?」
人が作戦を練っている所で、強烈な技。
地面に振動が走って、無数の石が一斉に俺に襲い掛かってくる。
全身を打ち付ける石の衝撃。
見えないのに、俺の全身が青く腫れてるだろうと想像させられる。
「くっそ……いって……マジーな……どうやって倒せばいいんだよ、こんな状況で……」
『童、学べ。これが実戦だ。強いものが勝つのではない。力の無いものも強い者に勝つために策を弄する。それは当たり前のことだ。闘技場で正面戦闘をすれば貴様が勝つだろうが……何でもアリの実戦ではそうとは限らないということだ』
トレイナの言ってることはイチイチ俺に突き刺さる。だが、それでも今はここで時間を食ってる場合じゃねえ。
こいつらにはまだ仲間が居る。その仲間がアカさんに迫っている。
アカさんを助けにいくためには、こんな所でモタついている場合じゃねえ。
『トレイナ。あんたならどうする?』
『余の六道眼の前ならこの程度の霧なぞ無意味。仮に目を瞑っても、気配や音を頼りに戦えもするし、辺り一面を吹き飛ばすことも可能。それはまだ童には早いがな……』
『ふぐっ!?』
『少し自分で考えろ。ヒントは与えた。こういう状況、自分で活路を見出すことが成長に繋がる』
くそ、参考にならねえ。まずい。本当にこのまま俺は……?
トレイナの言うように、気配や音を頼りにってのも無理だ。そもそも、シノブの動きが全然分からない。音も気配も悟らせず、術を使うときや、目の前にクナイが現れるまで分からない。
全体をふっとばすような魔法つっても、俺はギガ級の魔法とか使えないし……ん?
「あっ、あった」
一個だけ、俺が使える破壊力抜群の魔法……いや、技がある。
『ほう……そのアイディアに辿り付くか……皮肉なものだな』
そのとき、トレイナは悪くない反応と、少し複雑そうな様子を見せるが「間違い」ではなさそうだ。
なら、俺は自信を持ってやるだけだ。
「いくぜ、ブレイクスルーッ!!」
全身に魔力を漲らせるブレイクスルー状態。もっとも、姿も居場所も分からない相手にいくら肉体強化しても意味が無い。防御力が上がるだけだ。
だが、ここから俺は右手を掲げて、アレを使う。
「大魔螺旋!!」
色々と俺の人生を左右させた大魔螺旋。二日続けて使うことになるとはな。
だが、これはただの大魔螺旋じゃねえ。
ただ相手に突っ込んで風穴開けるドリルとして使うのではなく、こうやって掲げ、そして激しく回転させることで……
「まとめて全部吹っ飛べぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ッッ!?」
「アーススパイラルトルネードッ!!」
強烈な竜巻を発生させ、霧も木々も全てを吹き飛ばす。
周囲の木々が飛び、大地も抉れ、霧も飛んで視界がクリアになっていく。
「な、こ、これは!? きゃあっ!?」
「くははははは、みーつけた!」
そして、見つけた! ついに!
風で吹き飛ばされるのを必死でこらえながら、短いスカートが捲くれてパンツ・白・王道・瞬間記憶魔法キャノニコン発動! ……じゃなくて、そう、見つけたぞ、あの女をな!
だが、そのとき……
『正に大魔螺旋のその使い方……螺旋竜巻が……あの都市を滅ぼしたのだがな……』
トレイナがどこか複雑そうに何かを呟いていたが、今はそんなことよりもアッチだ。
「もう逃がさねえぞ!」
「あっ……は、速いッ!?」
距離を離されたり、また隠れられたりしたらたまんねえ。
クナイや手裏剣投げも、術の発動すらさせねえ。
超インファイトでケリをつけてやる。
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