第41話 飛び込む
アレを使う。
二カ月前は、俺の想像を遥かに超えるモノ過ぎて、自分が使えるようになるなんて思わなかった。
でも、今の俺は本番という場面でテンションが上がっている。
今ならできる気がする。
いや、できると自信を持っていた。
――俺があの技を使えるようになるのに、どれぐらいかかる?
――大量の魔力を消費する。破壊力も凄まじく、余も好きな技ではあるが……大振りすぎるところもあるため当てにくく、正直実戦向きではないな。
――えっ? そうなの?
――そうだ。実際、ヒイロたちとの『戦い』では使わなかったものではあるし……習得には……まぁ、半年ぐらいは欲しい所だな。
でも、相手が力の限り正面から特攻してきたらどうだ?
当てやすいんじゃねえか?
そして、当てることができれば破壊力抜群。
今なら……
『おい、童! 貴様……ッ!』
『ふっ、少しぐらい……あんたの計算を俺もズラしてみたくなった……半年? 習得は、今だ!』
『ッ!?』
今こそ、その時だ。
「ふきとべ、アース! これが俺の……」
上空へ高く飛んでから、勢いよく剣を振り下ろすだけ。
単純にして、しかし強力。
一振りに全てを込めて飛び込んでくるリヴァルに対して俺は……
「ふきとぶか! 教えてやる! ここに誰が居るかをな! アース・ラガンがここに居るんだってな!」
あえて正面から俺もぶち破る。
「濃密に、そして研ぎ澄まされ、蒸気となって溢れ出る魔力を……集中し……膨張させ! 固め! そして余裕があれば、何かを形作り、更に余裕があれば回転させる! だったよな!」
トレイナの教えてくれた言葉を一言一句違えずに言葉にして叫び、俺の右腕に螺旋を作る。
その螺旋は、ハッキリ言ってトレイナが見せたものとは大きさも密度も違うかもしれない。
だが、これはあいつの技であっても、ただの真似じゃねえ。
「これがァ……俺のォォォォ!!」
『ほぅ……』
俺が新しく進む道を創るための……
「……あ……アレは……あの、先端の尖った回転する螺旋の技は……確か!?」
「う、そ……まさか……ッ!? 十七年前のッ!? 魔導都市を滅ぼした……ッ!?」
俺の……
「ぼっちゃ……ま……あ……あっ――――――――――」
本気の想いを込めた……
「唸って突き進め、俺の全力全開!!」
そして、コレに関しては、技名は師匠に免じて受け継いでやるよ!
変なネーミングセンスだし、何で二回もアレを入れるかは分からねーがな。
ただし、冠するのは……
「竜破天衝斬ッッ!」
「大魔螺旋・アース・スパイラルブレイク!!」
新しい、俺自身だ!
「っ!?」
「ふっとべ、リヴァルうううううううう!」
激しい螺旋を唸らせて、リヴァルに正面から飛び込む。
眩く弾ける閃光。
「うおおおおおおおおお、いっけええええええ!!」
この瞬間、俺はもう既に確信した。
この力であれば、リヴァルの全力の一振りすらも正面から……
「ギガサンダースラッシュ!」
「朱雀円月刀!」
その時だった。
「ッッ!!??」
俺とリヴァルが正面からぶつかり合う寸前、俺たちの技をかき消すような衝撃を込めた力が光速で割って入る。
「……親父……母さん?」
それは、剣を抜いた親父と、矛を持った母さんが血相を変え、同時に俺を……
「アース……お前……お前ッ!」
「あんた……どうして……!」
あまりにも突然のこと過ぎて、俺もリヴァルも、この場に居た誰もが一瞬何が起こったか分からなかった。
「なん……で?」
親父と母さんが、俺たちの戦いに割って入った?
そして、強くなった俺を褒めるとか、労うとか、そんなものは一切ない。
実の息子である俺に初めて向けるような……なんでそんな目で俺を見る?
なぜ? なんで親父と母さんが邪魔をする?
「な……なんで邪魔すんだよ、親父! 母さん! 一体……」
俺は、親父と母さんを驚かしてやろうぐらいには思ってた。
結果、二人は驚いてくれた。
だが、こんな目で見られるとは思ってなかった。
「……アース……お前……どこで……どうやって、誰に……そんな技を教わった?」
「どこでって……」
「その技は……ッ……」
この技は……親父が倒した大魔王の幽霊に教わった。それが真実だ。
「待って、ヒイロ!」
しかし、俺が何かを言う前に母さんが制した。
「ここでは……リヴァルも大丈夫?」
「え……は、はい……でも、これは一体……」
「ごめんね、リヴァル。でも、ごめん。この戦いはこれまでよ」
俺だけじゃなく、突如割って入られたリヴァルも戸惑っている。
いや、俺たちだけじゃない。
「ヒイロ殿……マアム殿……」
「いったい……どうなっているの?」
姫やフー、
「おいおい、なんだなんだ? 大勇者ヒイロだ!」
「それに、マアムさんもいるぞ?」
「どうなってんだ!? 何で二人が割って入ったんだ!?」
それどころか、ざわついている観衆も全員が戸惑っている。
親父と母さんが、緊迫した表情で俺たちの前に現れたからだ。
そして、親父は……
「リングアーナ。諸事情によって、この勝負はこれまでだ。アースは棄権させる」
「えっ、い、……いいんですか?」
「ああ。それと、アースはこのまま俺たちが連れて行く。御前試合はこのまま続けてくれ」
ッ!? は!? 棄権ッ!?
いや……俺がこの大会に出るためにこの二ヶ月間どれだけ……ふざけるな!
「ちょ、ちょっと待て、親父! 何でだよ! 何で勝手に俺を棄権させて――」
「黙れッ!」
「ッ……」
その瞬間、親父の圧倒的なプレッシャーが俺の全身を駆け巡り、俺は思わず言葉を失った。
これが……親父の……
「アース。もし、あのままお前があの技を使ってたら……リヴァルもきっとただじゃ済まなかっただろう」
「…………」
「あんな技……あんなの……戦士が使う技じゃねえ!」
親父が何とも言えないぐらい……悲しそうな……つらそうな表情を……
親父だけじゃない。母さんも俺を……失望どころじゃない。悲しんでいる。
そして……
「ア……ア、あ……あ……あれは……かつて……私の故郷を……どうして? 坊ちゃま……ぼっ……ちゃ……ま……」
サディス? なんで? 途中邪魔されたけど、見てただろ? 俺が強くなったところ?
なのに、何だよその顔は! なんで、そんなに……俺が見たことない……いつもイジワルな顔を浮かべて、でも優しくて、そんなサディスが……あんな怯えたような顔……
「ひ、い、い……いやああああああああああああああああああああ! おとーさん! おかーさん! いやあああああああああああああ!」
「ッ!?」
「やめて! おとーさんが! おかーさんが! 大魔王に、おじさんが、おばさんが、おじーちゃんが、おばーちゃんが、みんなが! 大魔王に殺されるッ!!」
そして、サディスが頭を抱えながら発狂した……
「サディスッ! ッ……ヒイロ、ここはお願い! 私はサディスの所に!」
「……ああ」
発狂し、泣き叫ぶサディスに母さんが慌てて駆け寄る。
どうしてだ? どうして……
『……まさか……』
なあ? トレイナ、どういうことだ? 「まさか」って何だよ……
「ま、間違いない……あの力は……」
その時だった。
突如起こった状況にざわめき出した観客席で、サディスの怯えた声が響いた。
まるで、幼い子供が泣き叫ぶように。
そしてその声は……
「あれは、どうして? なんで? 大魔王トレイナは、だんなさまが……マアムおねーちゃんがたおしたのに……どうして大魔王トレイナの力を坊ちゃまが使えるのです!?」
「「「「ッッッ!!!???」」」」
「わたしの家族を……家を……みんなをころし……い、い……いやあああああああああああ!!」
全ての者に届いた。
そして俺は、初恋の人が壊れたように泣き叫ぶ姿と……
『ッ、まさか……あの都市の生き残りが……そしてあの場に……ヒイロとマアムも居たのか……?』
初めて見せる、トレイナの苦虫を潰したような表情に、俺はただうろたえるしかなかった。
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