第35話 宣戦布告返し
「さて、準備はできたか若獅子共! 俺は今日、審判をさせてもらう、帝国騎士のリングアーナだ」
俺が密かにあることを考えていると、ようやく御前試合の審判となる戦士が現れた。
強面の巨漢で、かつての大戦を生き抜いた上級戦士ということで、結構有名な奴だ。
「お前たちは今日、全てのアカデミー生を代表し、新たなる戦士誕生を陛下及び民に披露する。自分のためだけに戦うな。胸を張り、今日この場に集まってくださった全ての方々の顔を見ろ。それが、お前たちが今後守るべき人々だ」
力強い言葉と共に俺たちを集めるリングアーナ。
その言葉で、俺ら以外の緊張していた他の奴らも目つきが変わり「やってやる」と気合を入れた様子だ。
そして……
「えー、皆様! このたびは帝国戦士アカデミー卒業記念御前試合にお集まり頂き、誠に有難うございます!!」
ようやく外でも開催の司会が始まった。
流石に俺も、そして姫やリヴァル、フーも顔を引き締めた。
「これより、選抜されたアカデミー生、16名による御前試合を始めたいと思います! どうぞ、最後まで御覧ください!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」
何千? いや、万? それぐらいの勢いを感じさせる大歓声が地響きのように轟く。
「ではまず、選抜生徒によるくじ引きを行います! 選抜生徒、入場!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!!」」」」
「フィアンセイ姫ぇええええ!!」
「リヴァル様! キャー! ァァ、かっこい~」
「フレッフレ、フーくん、頑張れー!」
リングアーナの後に続いて俺らも闘技場に足を踏み入れる。
そこに広がるのは広々とし、四方は壁に囲まれた広場。
そして壁の上の観客席は全て埋め尽くされている。
さらに、来賓席では……
「さっ、集まったな。次世代たち」
優しい微笑みを浮かべながら俺たちを見守る皇帝陛下。隣には姫の母親でもある皇后も居る。
そして、二人の傍らには……
「おっ、アース、体調は良さそうだな」
「く~、私も本当なら観客席でサディスと一緒に大声でアースを応援したいのに~」
皇帝と皇后の一番傍で護衛をするように立つ、親父と母さん。
そして……
「ゴーゴー坊ちゃま、いけいけ坊ちゃま!」
「ちょっ!?」
観客席を見て、ビックリ。
そこには、両手に「ぽんぽん」とかいう玉房状の道具を振り、青色のノースリーブに短いスカートを穿いたサディスが、足を上げたり両手を上げたりして俺を応援していた。
やば……エロかわ……
「あは、サディスさん相変わらずだな~」
「ふっ……相変わらず、アースに過保護な……」
「むっ、お、おい、アース。あんまりサディスの足やスカートばかり見るんじゃない!」
フーやリヴァルにとっても昔なじみのサディスの姿に、二人も頬が僅かに柔らかくなる。
姫だけはムッとした表情を見せているが……
「さあ、ここに集った選抜生徒16名が本日皆様の前でその力を存分に披露させていただきます。ルールは、武器及び魔法を駆使しての決闘。そして、今から一人一々にくじ引きをしてもらい、組み合わせを決めることになります」
司会の言葉と共に、リングアーナが四角い箱を俺たちの前に差し出す。
「さあ、一人ずつクジを引き、番号を読み上げろ」
観客席よりさらに上に巨大看板のような空欄のトーナメント表が用意された。
今から一人一人番号を読み上げて、あそこに記していくわけか。
事前にくじ引きをすりゃいいんだが、こうやって皆の前でやるほうが盛り上がるから、こういう流れになっているそうだ。
「では、順にクジを引いてもらう。まず、フィアンセイ・ディパーチャ!」
「はいっ!」
まずは姫から。リングアーナが持つ箱に手を入れ、中から丸い球を一つ取り出す。
そこには、10番の数字が書かれていた。
「フィアンセイ・ディパーチャ、10番! 1回戦は五試合目となります」
「次! ゲリッピー・ユルイ!」
「おっしゃあああ! ……はい! 15番です!」
次々と埋まっていくトーナメント表。
「次、フー・ミーダイ!」
「はい! ……うんしょ、うんしょ、はい! え~12番です」
「次! コマン・パイパ!」
「う、は、はい~……あの、その……6番です……」
そしてそれなりに進んできたところで、
「次! リヴァル・ジャネイン!」
「「「「キタアアアアアアアアアアアアア! リヴァル様!」」」
「次代の英雄候補筆頭にして優勝候補のリヴァル!」
「もう、風格が新人じゃねえ!」
「既に上級戦士クラスって話だしな。間違いなく、世代最強の男!」
流石に大人気のリヴァル。
一年間帝国に居なかったこともあり、皆がその成長した姿を早く見たいとワクワクした表情をしている。
「リヴァルか……なるほどな。フィアンセイの婿候補に立候補するだけの自信があるわけだ」
「ああ……いい面構えだ」
「ええ。もう、完全にアカデミーのレベルじゃないかもね」
当然、皇帝や親父や母さんも目を見張るっていう感じだろう。
そして、そのリヴァルがクジを引き……
「はい……2番です」
「リヴァル・ジャネイン、2番! 1回戦第一試合になります!」
「「「「いきなりリヴァルキタアアアアアアアアアアアア!!」」」」
2番の玉を引いて、第一試合となったリヴァル。
そうか、リヴァルは1回戦第一試合か。
「次、アース・ラガン!!」
なら俺は……
「おっ、大勇者ヒイロの2世が来たな!」
「才能は父と母には劣るが、秀才だって話だしな」
「ああ。今回のダークホースになるか?」
「坊ちゃま!」
俺の名前が呼ばれ、しかしリヴァルの歓声には程遠い。
無理もない。俺の才能など、とうの昔に帝都中に知れ渡って、もう今では皆がそこまで俺に過剰な期待はしない。
むしろ、姫やリヴァル、そしてフーという天才を持ち上げている。
だが、俺は……
「へへ」
「ん? ッ、お、おい!」
今からその評価全てを変えてやる。
そう決意し、俺は事前にトレイナと企んでいたことを実行する。
それは、リングアーナからクジの箱を取り上げてそれをひっくり返して、地面にクジをバラ撒く。
「ッ!? ちょ、おま!?」
「アースッ!?」
「えっ、あ、アース?」
「何やってんだ、あいつ!?」
「クジをひっくり返した!?」
流石に俺の予想外の行動には、観衆も含めて驚いてざわつき始める。
しかし俺は構わずに、地面に落ちたクジの中から、ある番号を拾い上げる。
それは……
「えっと……あった。くはははは、アース・ラガン! ……1番! 1回戦第一試合、対リヴァルだ!」
「「「「「ッッッッ!!!???」」」」」
リヴァルに、そして全ての奴らに俺なりの宣戦布告をしてやった。
「あ……あのばか……」
「……あ、あたまが……いたくなってきた……」
「……ぼっちゃま……」
俺のやったことに誰もが絶句し、親父と母さんにサディスは口を大きく開けて固まっちまってる。
三人のあんな反応は初めて見て、何だか新鮮な気分だ。
そして、しばらくの静寂の後……
「「「「なにやってんだあいつはーーーーーっ!!!???」」」」
と、全ての者が一斉に同じ言葉を叫んだ。
「ちょ、あ、あいつ、クジをひっくり返して番号を選びやがったぞ!?」
「そ、そんなのありか!? 不正だ! 大勇者の息子のくせに何考えてんだ!」
「いや、で、でもよ……そ、それって、対戦相手にリヴァルを選んだってことか?」
「バカな! あのリヴァルを……」
「でもそれって、1回戦からいきなり、勇者の子同士の対決ってことか?」
「いやいや、こんなの認められるはずがないだろ!」
俺への非難。戸惑い。そして同時に沸き上がる、一回戦の第一試合からいきなり勇者の子同士の対決が見られるのではないかという反応。
とはいえ、これがどうなるかは分からないが、とりあえず、これが俺のさっきの返答だと、クジの球をリヴァルに見せつけた。
「ッ……アース……貴様……」
「へへ……これが俺の答えだ、リヴァル」
「……なに?」
「俺も俺を証明するためにここに居る」
リヴァルもかなり驚いたようだが、一方でメラメラと炎のようなものが沸き上がっているのが分かる。
「……いいだろう! 俺はお前の挑戦を受けよう!」
リヴァルはやる気だ。
「アース……な、なんて……いけないことを……♡」
「わわわ、アース……って、姫様?! め、目がハートに……え、姫様的にアレは、アリなんですか?」
何だか、姫とフーも騒いでいるが、そんなのは今関係ない。
「うおおおおお、リヴァルが受けたぞ!」
「じゃあ、いきなり一回戦から!?」
「おもしれえ、なんか見直したぞ、アース!」
そして、民衆もリヴァルの受諾に反応して歓声を上げる。
「ちょ、お、お前ら、何を勝手に! これはくじ引きだと……ええい、こんなの……」
とはいえ、ルール違反はルール違反。
当然、リングアーナもやり直しをさせようとする……が……
「リヴァル・ジャネイン!」
「ッ!?」
そのとき、来賓席に居た皇帝が立ち上がった。
皇帝の開口には流石に騒がしかった観衆も一斉に静まり返る。
そして、一瞬で空気が張り詰める中、皇帝は厳しい表情をしたまま、リヴァルに尋ねる。
「これは明らかなルール違反だ。しかし、君は『受ける』と言った。それで構わないのかい?」
皇帝の問いに、リヴァルは片膝ついて拝手する。
「陛下。自分はこの大会、優勝します。それはすなわち、ここに居る誰と戦っても負けないということを意味します。故に、クジによる対戦決めは無意味! 誰とでも自分は戦います!」
力強い宣言。そこまで言うのならと、皇帝は手を上げて声を上げる。
「では、一回戦第一試合は、アース・ラガン、リヴァル・ジャネイン。この二人で行う!」
「「「「ウオオオオオオオオッッ!!!!」」」」
皇帝直々の決定。
そうなればルールも関係ない。誰にも覆せない。
その瞬間、今日一番の興奮に満ちた歓声が上がった。
そんな中、親父と母さんとサディスは、もう言葉も無いと、半笑いして引きつっていた。
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