第16話 それでも生きていく

 外に出るとすっかり明るくなっていた。

 

 ドルトムントの家は小高い丘の上に建っていたが、井戸が近くに掘られていて、冷たく綺麗な水が豊かだった。

 桶で水を汲み上げて、顔と体を拭いて、周りを見回すと、建物の一階には、先ほどドルトムントがいた倉庫のような発掘品置き場の他に、台所と食堂があった。

 台所のほうからおいしそうなパンの香りが漂ってくる。

 飛翔は急にお腹が空いたことを感じた。


 どんなにショックなことがあっても、人間って奴は生きていくことに貪欲なんだな。


 飛翔は自分のことを客観的に眺めているような不思議な感覚でいた。


 この世界は千年後の世界であって、本当は自分のいるはずの無い世界。

 周りの人々はいつもと変わらない日常を生きているが、自分だけは切り離されたような、言いようの無い孤独感が襲ってきた。

 

 感覚のマヒした足取りで二階の自分が寝ていた部屋へ帰ると、ベッドの上にフィオナからのメッセージと一緒に真新しい服と洗濯済みの祭祀服が置いてあった。


【着替えたら、洗濯するから持って来てね】


 飛翔の目の前に、急に、日常が帰って来た。


 俺は、今生きているんだ!

 千年後の世界でも、フィオナの目の前で生きているんだ!

 いや、フィオナだけじゃない。ドルトムントも、ハダルも、ジオも、俺を見て話してくれた!

 この世界で俺は一人じゃ無いんだな……


 飛翔は込み上げる涙をそっと拭うと、着替え始めた。


 飛王ひおうとリフィアは大丈夫だろうか。

 瑠月りゅうげつ流花るか、みんな……

 

 無事でいてくれ!


 着替え終わると、青い肌着をそっとベッドの下に隠した。



 禊祭みそぎさいに際して、飛翔は胸騒ぎを抑えることができなかった。

 星光石の指輪ルス・エストレアをそのまま箱に入れて持ち歩く気になれない。

 だから、肌着に縫いこむと言うリフィアの提案に賛成した。

 そのお陰で、指輪は無事だった。


 リフィア……

 別れも言えなかった

 

 もう一度、会えるのだろうか……


 胸が締め付けられるような想いを必死で遠ざけて、飛翔は今考えなければいけない事に集中する。


 指輪をどうやって持ち歩けば安全だろうか。

 方法を考えないといけないな。

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