第17話 朝食

 食堂に降りて行くと、もうハダルもジオも起きて、朝食を並べるのを手伝っていた。


「よ! おはよう。飛翔。よく眠れたか?」

 ハダルが飲み物を差し出しながら声をかけてきた。

「着替えたらさっぱりしただろう」


「おはよ~」

 ジオはあくびをしながら、飛翔の前にスプーンとフォークを置いた。


「ありがとう。おかげで良く眠れた」


 テーブルの上にはフカフカのパンと、ヨーグルトやチーズ、果物が並んでいる。

 飛翔はふんわりと膨らんだパンを初めて見た。


 こんなにフカフカなパンがあるとは!

 

 飛翔の知っているパンは、茶色くて歯ごたえのあるパンで、中には木の実がたくさん入っていた。こんな風に膨らむには、何か秘密があるのだろうと思うと、生来の探求心がうずいてきた。


「このパンはどうやって作るんだ?」

「あら、飛翔は、パンの作り方に興味あるの? これはね、酵母が決めてなのよー。後で見せてあげるわ。」

「酵母?」


「腹減った~。早く食おうぜ!」

 待ちきれないジオの声で、みんなが椅子に座る。


「では、今日も一日元気に働けますように! 天の恵みに感謝!」

 ドルトムントが祈る様に言葉を唱え、みんなが手を合わせてから、食事が始まった。


「飛翔、遠慮しないでどんどん食べてね!」

 飛翔がふわふわなパンを噛み締めている間に、ジオはペロリと食べ終わって、ちらちらと飛翔の顔を盗み見る。

 早く飛翔に色々尋ねたくて、うずうずしているようだったが、果物を食べながら飛翔が食べ終わるのをおとなしく待っていた。


「飛翔、お前、いったいどこから来たんだ?」

 みんなが食べ終わった頃、ジオが嬉しそうに口を開いた。


 どう説明すればいいんだろう?

 千年も昔から来たなんて聞いたら、きっと頭がおかしいと思うだろうな。

 彼らは聖杜せいとのことも知らないようだし、タイムトラベルができるなんてことは、あまり人に知られないほうが危険も少ないと思うし……

 

 飛翔が黙りこくっているのを見て、ジオは何を感じ取ったのかはわからないが、急に質問を変えた。


「家族は?」

「家族は……父と母はもういない。兄弟は、双子の兄がいる」

「親がいないんだ!俺とハダルも一緒さ! 仲間だな」

「双子のお兄さんがいるの! それって素敵!」

 ジオとフィオナが同時に叫んだ。


「じゃあ、お兄さんのところに帰る途中だったの?」

「いや……兄の飛王ひおうは、遠くにいるんだ。簡単には行かれないな」

 

 しんと静まるテーブルの向こう側から、ドルトムントが優しく言った。

「じゃあ、お兄さんのところに行かれる旅費が貯まるまで、ここで一緒に暮らせばいいだろう」

 

 飛翔が感謝の言葉を言おうとすると、

「お父さん! 飛翔はお父さんの相手をするために、ここで暮らすんじゃないんだからね! そこのところ間違えないでよね!」

 フィオナがドルトムントを軽く睨んだ。

「え!」

「飛翔、気をつけなさいよ! お父さんの話相手なんか引き受けたら、干物になるまで相手させられるわよー。適当にあしらっていいからね!」

 

 フィオナの勢いに飛翔がたじたじとなっていると、ドルトムントはしょんぼりしながら、

「そんな言い方しなくても……飛翔君が歴史の勉強をしたいと言っていたのは、本当のことなんだからな……」


「ここにいて旅費が貯まるかは、甚だ怪しいけれど、ここで一緒に暮らしながら、先のことを考えるのは、いいと思うぜ!」

 ハダルが励ますように言うと、

「俺も賛成!」

 ジオが元気よく立ち上がりながら言った。


「そういえば、飛翔、洗濯物持ってきてくれた?」

「いや、その……自分で……」

「えー! 自分で洗ってくれるの! じゃあ、よろしくね~」


 フィオナも立ち上がって片づけを始めた。

 ハダルとジオもそれぞれの食器を台所に運ぶと、出かける準備をしている。


 それっきり、ジオも他の人達も、飛翔のことを詮索するようなことは無かった。



 飛翔はまごまごしていたが、片づけの手伝いをしようと立ち上がったところで、ニコニコしたドルトムントに肩を叩かれた。


「飛翔君、さあ、歴史の勉強を始めようか!」

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