番外編 眠居夢見といばら姫 後編

 来客があった。街ごと眠っているにも関わらず。

 彼らは魔法使いだと名乗り、いばら姫と街の現状を電気羊に伝えに来たらしい。

 その来客に、電気羊は少なからず動揺したようだった。

 今しかない。

 私は意識を浮上させた。

 夢の中で夢から覚めるなんて、少し面白い、なんて。

 いつもより若干音があったからか、私は無事、眠りから覚めた。

 ただちょっと計算違いをしていた。

 電気羊の制限のない睡眠導入効果のせいか、体が重たくて、動かせない。夢の中でずっといただけで、体を私の意志で動かしたことが無いせいとか、半月くらい体を動かしていないせいもあるかもしれない。

 ともかくとして、なんとかして動こうとしたけど、接着剤でくっつけられたように瞼すら開けられない。

 ぼそぼそと電気羊と魔法使い二人が話しているのが聞こえる。内容は聞こえない。意識はいばら姫の体の中にあるのに目を開けないから、どんな状況なのかもよくわからない。

 なんとか指一本でも動かせないか試しているとき。

 一瞬静かになった後、重たいものが二つ、倒れたような音がした。

 これはまずいかも、と嫌な予感がする。

 重たいものが二つなんて、絶対に魔法使い二人だ。

 電気羊が何かしたに違いない。しかも、私の都合の悪い方に。

 足音が近づいてきて、枕元に一人座った。

「これで私が、私の力でいばら姫様を起こせば、いばら姫様の王子さまは私ですの」

 そこで、電気羊がハッと息をのんだ。

「今、私がいばら姫様を起こしてしまったら、いばら姫様と一緒にいられないかもしれませんの」

 これはまずい、ともう一度思った。それも、さっきよりも強く。

 目を覚ましてくれるなら、万々歳だったんだけど。

 ここでチャンスを逃したら、次はいつになるんだろう。

 今日の魔法使い二人だって、本当に初めての助けだった。

 次が来る頃には、栄養失調とかでいばら姫は死んでしまっていたりしないだろうか。

 とにかく目を開こうとすると、瞼をなんとかこじ開けられた。

 視界の端で、電気羊が小さく息をついて、立ち上がろうとしていた。

 動け、動かなきゃ。

 思いっきり腕を動かしたら、電気羊に当たったから、力いっぱい握る。力が全く入らないけど、それでも出来る限り握った。

 電気羊の動きが止まる。私、というよりいばら姫を見ている。

 私も、電気羊に視線を向ける。

「……わたしの勝ちだね」

 ほとんど吐息のような声が私の口から漏れる。

 体は動かないけど、とにかく目を覚ますことはできた。

 この後は……きっと、いばら姫がなんとかしてくれるんじゃないかな。

 それから、室内に目を向けた。

 予想通り、魔法使い二人が倒れていた。

 多分眠っているのだろう。

「あ、ブライア様、これは……」

 電気羊がはじかれるように立ち上がり、、魔法使い二人を隠す。

「分かってる」

 全部見ていたから。それに、

「大丈夫。この子も貴女のこと大切に思っているから」

 この結婚は、よくある愛はないものだと思ってた。

 だけど、私が思っているより、電気羊もいばら姫も、お互いがお互いのことを大事に思ってるらしかった。

「だから、大丈夫」

 電気羊が聞き返すように耳を寄せてきた。

「だから、信用して」

 彼女のこと。

 あ、そうだ。

 いばら姫を起こした人が王子様なら、それは電気羊でもなく、いばら姫でもなく、私だ。

 近づいてる電気羊の頬に顔を寄せた。

「王子様のキス」

 なんてね。じゃあおやすみ。

 多分私の出番はもう終わり。






 結論から言うと。

 私といばら姫との夢での入れ替わりは、終わりにはならなかった。

 と言っても頻度は月に一度くらい。本当に時々。

 そして、いばら姫と入れ替わった時、私は起きていられるようになった。

 電気羊の睡眠導入効果が調節されて、いつでも起きれるようになったから。眠気が全くない体で。

 それがとてもすっきりして、好き。

 そのたびに電気羊は計測と噛み合わない違和感にまみれて、困惑してしまうけど。

 それから、いばら姫と電気羊は正式に結婚したらしい。

 これは、夢の中の設定はすぐわかるあれではなく、電気羊の雰囲気で分かった。

 これにてハッピーエンド。






  おわり






 一つ問題があるとしたら、私が深夜テンションであらぬことを、電気羊にしてしまったこと。

 深夜テンションって怖い。

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新米魔法使いのSF国紀行 ニョロニョロニョロ太 @nyorohossy

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