本当の告白
私、御津宮紗枝は光久の指示通りに公園を離れ河原を散歩する。
ゆーくんは私を見つけてくれた。
暗号の解読、という作業を通してだけど、とにかく見つけてくれた。
私は、それで十分満足だった。
直接気持ちを伝える勇気もなく、彼と普通に会話をするために舞花という人格を作ってしまうような私には、そのくらいの結末がちょうどいい。
でも、できるならもう一度だけ会いたかったなあ。
優しい言葉なんて望んでないし、怒られても構わないから、もう一度お話がしたかった。
この公園にはもうすぐ人が来るから、移動しろって光久から電話があった。これじゃあ、ゆーくんも私を見つけられないよね。まぁ、ここまで待っても来なかったんだから、結果は同じだったんだろうけど。
舞花と人格が入れ替わるまでは、あと一、二時間しかない。
そうなったら、私はもう私として目覚めることはないかもしれない。
ゆーくんは、これから先も私のことを覚えてくれているだろうか。たまにでもいいから、たとえば混ぜ込みわかめのおにぎりを食べた時だとか、どこかで黒いセーラー服を見かけたときだとかにでも、思い出してくれるだろうか。
クラスの皆にも、最悪なイメージだろうけど、私という存在を印象付けてはおいた。嫌な思い出としてでもいいから、誰でもいいから、私のことを覚えていてほしかった。
真昼の陽の光が反射し、川が煌めく。
私は目を細めて、ゆーくんのことを想う。
もし、
もしも彼ともう一度だけ会えたなら、
そう、私がその先を想像しようとすると、
「御津宮ぁ――――っ!!」
私を呼ぶ声が現実に響いていた。
私は目を見開いて、声のした方角を向く。
まるで私の夢が一瞬にして現実化したみたいに、
そこには、息を切らした彼が立っていた。
嘘?
なんで?
どうしてここに君が、
彼はどんどんと私に近づいて、私の肩を掴んで、こう言った。
******
「俺も、お前も、一人だけじゃないんだよ!」
河原を散歩していた御津宮を見つけるや否や、俺は彼女の肩を掴んで叫んだ。
ここまでなら、普通のよくある台詞だ。お前には仲間がいる、的な。
しかし、俺が伝えたいのは、そうじゃなかった。
「一人だけじゃない! この世に自分一人なんてことはないし、大事な奴も一人だけじゃない。自分と誰かの二人だけで完結しちまう世界なんてのはないんだ。今俺たちの頭の中にいる登場人物は、あくまで氷山の一角。世界は広い! 自分にとって重要な相手は、いくらでもいる! いくらでも増えていく! だから、一人だけじゃない! どこでだれが、自分にとっての鍵になるかなんて一切分からないんだ! 当たり前すぎるよなぁ?! この世に人間がどのくらいいるかなんて、子供だって知ってる。だけど、俺はそのことを本当の意味では理解してなかった」
そしてきっと、お前もだ。
俺は掴んだ御津宮の肩を、揺さぶる。頭に浮かんだ言葉がそのまま口から流れ落ちる。制御はまるでできていない。
「まだまだ世界には可能性がある! だから、過去の思い出に、俺だけにこだわって自分のことを諦めるなんて、消えようとするなんてもったいなさすぎるぜ! 俺も、お前も、もっともっと広く世界を見るべきなんだ。一緒に生きようぜ、この登場人物が七十億以上もいる世界をな!!!」
もちろん、人生で出会える人間にも、できることにも限りはある。
だからといって、それをないものとして扱う必要はないんだ!
正直、自分がなにを言っているのか把握し切れない。きっとナンセンスな話をしているんだろう。でも、この激情は、きっと正しいはずだ。今までの俺よりは正しいはずなんだ。
尋と二人だけの世界を当たり前だと思っていた俺。それでいいと思っていた俺をぶち壊す起点になったのは、このゲームを発案したお前だ。過去の勘違いから、俺を想い、その一人にこだわり続けて未来を諦めようとしている御津宮紗枝だ。だから俺が今、この気持を一番に伝えたいのは、他の誰でもなくお前なんだよ!!
「どうしたの、急に? もしかして、雪島さんからなにか」
「ああ、あいつの知ってること、全部聞いた。しかも、あいつは俺の記憶にかけていた鍵を解除してくれた。俺はもう、あの時の公園でのことを分かってる。その上で言ってるんだ」
御津宮はうなだれる。
「せっかく私が身を引くって言ってるのに、なんで、あの子は」
溜息のように言葉を零す。
「ゆーくん一人に捉われずに、広い世界を見て生きろって? そんなの、すごく難しいよ。私はずっとそうしてきたのに、それに殉じて悔いなく消えようと思ったのに」
震える声。御津宮の声は、湿り気を帯びていた。
「それに、さっきの言葉。私のこと、遠回しに振ってるよね」
「でも、それが。私が好きになった男の子の、本当の、本気の、告白なんだね」
そうだ。
俺とよく似た大馬鹿野郎に対する、心からの親愛のメッセージだ。だから思い直すんだ。
「だったら、私は」
「時間ですよ、お嬢様」
一瞬で、空気が凍りついた。
戌亥、光久。
辻先輩も、こいつ完全にを止めることはできなかったのだ。
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