雪島尋の過去語り

 私、雪島尋は鳥を飼っている。

 毎日毎日世話をするのはとても大変だけれど、私以外に面倒を見れる人もいないから、私がやるしかない。それに、これは昔、幼なじみと交わした約束。今の私の中心にあるのはその約束だ。

 私はそのために生きている。


 高校二年生になって、御津宮紗枝と同じクラスになったとき、私はその顔に見覚えがあるような気がしていた。

(まさか、あのときの?)

 彼女がもしもあの少女だというなら、ずいぶんとキャラが変わったものだ。昔は、こんなイカれた風ではなかった。

(とりあえず、私に、悠樹に関わってこなければいいんだけど)

 だが、私の願いも空しく、彼女はこちらに接触してきた。


 高校二年生になってからの初の日曜日は、私にとってひどく印象深いものとなった。

 始まりは家への電話。御津宮紗枝からで、今すぐ公園に来てほしいという話だった。

 私が多忙を理由に断ろうとすると、彼女は数名の男子生徒の名前を出してきた。

(こいつ、どこまで知ってる)

 それは私にとって無視できない情報だったので、仕方なく公園に向かう。

 さびれた公園の入り口に、黒づくめの車が止まっていた。助手席には紗枝の、運転席には御津宮の従者である戌亥光久の姿があった。なにからなにまで黒づくめの連中だ。


 ここまで来て引くわけにもいかないので、私はためらわず後部座席に座り、言った。

「で、なんなのかな? 呼び出した用件は」

「フフ、用かい。用というのはね。君から二つほど、許可が欲しいのさ」

「許可?」

 口では疑問符を浮かべつつも、なんとなく察しはついた。ひどく嫌な予感がする。

「この前は君に断られてしまったからねえ。鳥籠の魔女さん、私は君の飼っている鳥を貸してもらおうと再びお願いに上がった次第だよ」

 口角を釣り上げ、ニヤリと笑う紗枝。

 鳥籠の魔女、という中二病的フレーズは初めて聞いたが、それが私を表す言葉であるのは間違いないだろう。同時にその台詞から、紗枝はやはりあのときの少女であることも確定的となった。全く、厄介極まりない。

「とりあえず、場所を変えようか」

 車が発進する。

 無言の車内に、走行音だけが響く。


「にしても、久しぶりだねぇ。雪島さん」

「どちら様? って言いたいとこだけど、どうも通じなさそうだね」

 目の前にいる黒づくめの女は、かつて私が悠樹の記憶を封印した後に現れて、私たちを大いに混乱させた存在だ。もちろん、その記憶自体も悠樹からは消しておいたが。

 その時彼女はこう言った。


『ゆーくんは私と約束をしてくれたのに……、あの言葉も、私のことも全部忘れたなんて、ひどすぎるよ!』


 悠樹は私以外とはろくに話せないようになっていたので、取り乱す彼女とのやり取りは私が引き継いだ。詳しく聞いてみると、「あの言葉」というのは、なぜか私にも聞き覚えがあった。

 そう。悠樹に付き合いでやらされた時メモの、星川渚に対する告白台詞だったのだ。彼女が悠樹と出会ったと主張しているのは夕暮れの公園。情景的にもぴったりだ。

 つまりは、真似事。子供がよくやる、ごっこ遊びの類。

 なので私は、教えてやった。


『それ、あんたに対する言葉じゃないわ。時々メモライズっていうゲームの、星川渚ってキャラクターに対する台詞だから』


 突き放すように言い、悠樹が記憶を失っている理由も一緒に伝え、私たちには二度と近づくなと念を押しておいた。

 だからもう、出会うことはないと思っていたのに。


 車が停まる。私は降ろされ、どこかの施設の、会議室のような場所まで連れてこられた、

 光久が扉を開け、私と紗枝は部屋の中へと入る。

「どうぞ、お掛け下さい」

 光久に促され、私は革張りの高そうな椅子の一つに腰を下ろす。女子高生には縁のなさそうな場所、雰囲気。その場には私たち三人以外にも、さらに二人の女の子がいた。

 二人とも、直接の縁はないが知っている顔だった。

 こんな場所にもかかわらず大きなヘッドフォンを着けた三年生、辻水瀬。

 非常に可愛らしい顔立ちをしたポニーテールの一年生、松本さくら。

 水瀬の方は学校で何度か見かけたし、さくらはテレビや雑誌で知っている。

 学校の、悪い意味での有名人が一堂に会していた。


 紗枝は、水瀬とさくらと私を見回して満足そうに笑うと、議長が座るであろう中心席に移動した。そして おもむろに机を叩き、高らかに言い放つ。

「休日にもかかわらず、お集まりいただき誠にありがとう! それでは始めようか。第一回『ヒロイン長会議』を!!!」

 あとには、痛々しい沈黙だけが残った。


 ある男子生徒を主人公に見立て、複数の個性的な女の子と出会わせて、現実にギャルゲーのようなシチュエーションを再現する。はたして男子生徒はどのような行動に出るのか。それを見るための実験、ゲーム。


 紗枝が言いたいのはそういうことらしい。私たちがゲームのヒロイン役というわけだ。

 水瀬とさくらは事前にある程度説明を聞いていたのか、テンションの変化はあまり見られない。私は、話が進んでいくうちにどんどん不機嫌な顔になっていった。眉間にしわが入っているのが分かる。

 紗枝、水瀬、さくら。

 この三人は分かる。学校内でも屈指の変人で、キャラが立っている。ギャルゲーのキャラクターなんて現実にいたら変人扱いだろうから、これはまぁ理解できる。学年的にも一から三年生までにばらけていてかぶりがない。


 問題は私だ。私はえらく背が高いという点では有名だと思うけど、それだけだ。この三人に比べたら、確実に埋没する。私が選ばれる理由があるとすれば、それは。

「さて、そこで鳥籠の魔女、雪島尋さんにお願いがある」

 紗枝は、ずれた眼鏡を人差し指で押し上げながら私を見る。

 そして、言った。

「しばらくの間、君の飼っている鳥を我々に預けてほしいんだ」

 紗枝は口の線を目いっぱい引き延ばして笑う。私は今、どんな表情をしているのだろう。もう、眉間にしわは入っていない。多分私は、虚ろな顔になっている。

「なんのことかなー。わたし、鳥なんて飼ってないんだけど」

 この期に及んで意味などないと知りつつも、一応とぼけてみる。

 私の言葉を聞き、紗枝は眼を見開いて笑った。

「クッ、フフフ、アッハハハハハ! 言うまでもないと思っていたんだけどね。鳥は本当の鳥じゃない。私の言っている鳥は人間さ。君が飼っている籠の鳥。北原悠樹をこのゲームの主人公に選ばせてほしいのさ!」


 まさに予想通りの、最悪な答え。

 やはり私の立ち位置は、「幼なじみキャラ」のようだった。

 思わず椅子から立ち上がる。

「なんの権限があって、人の日常に土足で踏み込んでくんの、あんたは」

 口調も荒くなる。

 場の空気が、一気に硬質化した。


「あのー、紗枝さん、この人が例の『幼なじみ役』のヒトなんすか?なんかやけに険悪な感じなんすけど」

 恐る恐るといった感じで、さくらが小さく手を上げた。

「役というか、北原悠樹君の正真正銘本物の幼なじみだよ、彼女は。君たちのキャラ付と違い、ゲーム開始当初から関係が確定している幼なじみというものは、偽りようがないからねぇ」

「あー、なるほど確かに。そりゃ大変っすねぇ。イロイロと」

「彼女に、事前の許可は取っていない?」

 表情に乏しい水瀬も、その顔にわずかな困惑の色を浮かべていた。

「良い着眼点だ! それを取るのが、この第一回ヒロイン超会議のメインテーマでもある。彼女、雪島尋さんはガードが固くてねぇ。少々強引な手段に出させてもらった」

 紗枝は大笑いし、周りは沈黙する。


「雪島さん、君に頼みたいことは二つある。なあに、別に難しい注文をするわけじゃない。一つは我々と共にこのゲームに参加してもらうこと。そしてもう一つは、指定した期間中、彼の記憶への干渉をやめてほしいということさ」

 その二つの要求を呑むことが私にとってどれほどのことか、こいつはまるで分かっていない。度し難い阿呆だ。

「あんたらの希望に、わたしが添う理由はないでしょうが。勝手にすればいい。わたしも勝手にやるだけだから」

「ふふ、喧嘩腰だね。こちらとしては、この計画を晒すのは君に対する礼儀というか、誠意というか、親切心というか。ともかく悪い話ではないと思うのだがね」

 紗枝の余裕たっぷりの声にハラワタの温度が急上昇する。

「ゲームの期間はそうだね、一週間でどうだい? ゲーム開始より一週間が過ぎれば、我々は君たちの日常から撤退することを約束しよう。その期間中だけでいい、彼に自由意思を与えてはくれないか」

「はぁ? 自由意思? 自由意思ってなんなの。私のしていることは彼との約束、彼の望み、つまりは彼の意志。見当違いな発言は止してほしいんだけど?」

「ふむ。君は既に理解していると思っていたが。本気でそう考えているのかい」

 限界だった。今までの鳥の世話で溜まりに溜まったストレスが、爆発した。


「――っ、あんたのわがままなんかに、これ以上付き合ってられるかぁっ!」

 私は拳を思い切り机に叩きつけた。轟音と震動。目の前に用意されたグラスの水が飛び散る。手の痛みも気にならないほど、頭に血が上っていた。

 紗枝は笑みを引きつらせ、水瀬は静物的な表情をより一層硬くし、さくらはドン引きしていた。唯一、光久だけが普段通りだった。

「お嬢様は少々挑発が過ぎますね。失礼しました雪島様。以後は私が説明を引き継ぎましょう」

「ちょっと、光久」


「『お嬢様』」


 反論しようとする紗枝をゆっくりとした一言で制し、光久は私に向き直った。ゆっくりと近づき、テーブルに散った水を拭う。端正な顔立ちだがどこか生気のないその顔には、ひっそりと歪んだ笑みが浮かんでいた。

「雪島様は一つ考え違いをされています。今しがたお嬢様が言ったゲームは、一件ふざけているように感じられるかもしれませんが、本質は医療行為なのですよ」

「いりょう、こうい? どこが?!」

「このゲームは、お嬢様の病状の改善に寄与することが期待されているのです」


 御津宮紗枝の病気。

 御津宮紗枝が欠席や早退を繰り返しているその理由。

 本人をして「自分はもう長くない」と言わしめる原因。

 多くの生徒の間で仮病だと言われている事の真相。このふざけたゲームはそれに関係している? 全く見えてこない。


「ここから先の話をする前に、五人目のヒロインに会っていただきたいと思います」

 私たち以外にも、参加者がいるらしい。

「なんでここに連れてきてないの?」

 私は、強引にでも連れてきたというのに。

「あー、それ、あたしも気になってたんスよねー。五人目来ないままに会議始まっちゃうしー」

「彼女は少し特殊でしてね。彼女にはこの計画を伝える必要はないのです。自然体であることが重要ですので」

「彼女への接触は避けてくれたまえ。顔合わせといっても、遠目から見るだけで頼むよ」

 計画を知らされない五人目のヒロイン。そいつの存在理由はなんだ?

「それでは皆、また会おう。記憶の墓標の上で!」

 困惑する私たちを残し、紗枝は部屋の外に消える。

「それでは皆様、しばらくの間ここでお待ちください」

 光久も紗枝に続いて消える。ドアを外側からロックする音が聞こえた。この間の脱出は無理のようである。


「はぁ――――」

 私は脱力し、椅子に座り込む。

 紗枝の話は非常に不愉快な内容だった。

 私の幼なじみ。私が世話をしている鳥であるところの北原悠樹を主人公に、ギャルゲー的なシチュエーションを再現する。期間中、私以外の四人の女の子が悠樹に関わってくる。私は、ヒロインの一人となり、鳥の世話は大きく制限される。――――冗談じゃない。

 ただ、先ほどの私は激高しすぎていた。あんな振る舞いにはなんのメリットもない。どうも、私は「鳥籠」の件でなにか言われると感情を制御できなくなるらしい。今日が初めてのことだったが、一回で嫌というほど理解した。

 卓上で組んだ両手に、頭を預けてうなだれる。


「あー、その、幼なじみさん。なんかお疲れ様っす、イロイロと」

 さくらは私に憐みの目を向けていた。

「彼女は、紗枝は悪いやつじゃない。そこまで悪いことには、ならないはずだよ」

 水瀬は神妙な顔で紗枝をフォローしていた。

 壁に掛けられたシンプルな時計の針は、午後1時31分を示していた。

「にしても、腹減ったっすね。茶菓子の一つでも出ないんでしょうか」

 不覚にも私が取り乱してしまったせいで、待ち時間は気まずいで過ごす羽目になった。


 鍵の開く音がして、光久が入ってきたのが午後2時過ぎ。光久に案内され、私たちはこの建物のとある部屋の前に案内された。この中に五人目のヒロインがいるのだという。

 彼女との接触は禁止されているため、私たちは光久に促され、小さな覗き穴から部屋の中を見ることとなった。

 最初は、私。

 私は、親の仇を見るような鋭さで、覗き穴に視線を刺していく。

 部屋の中には、マンガを読みながら時折吹き出して笑う女の子がいた。

 私は女の子を注視する。そして、信じられないものを見た。

 女の子は髪形や髪飾り、全体の雰囲気が時メモの星川渚によく似ていた――――などということは些細なことだ。問題は、彼女の顔。


 彼女の顔は、先ほどまで私たちの前にいた御津宮紗枝その人だったのだ。髪形を変えていようが眼鏡をはずしていようが、そこは変わらない。

「どういう、こと」

 彼女はコスプレしているだけの御津宮紗枝、あるいは双子か、それともドッペルゲンガーか。だが彼女の纏う雰囲気、浮かべる表情は紗枝とは全くの別物だ。遠目からでも分かる程に。

 私に続き、さくらが、水瀬が穴を覗き、それぞれのリアクションで驚愕する。

 その間に私の中で固まる、ある考え。

 先程の会議室に戻った後、光久はゆっくりとそれを口にした。


「お嬢様の御病気は解離性同一性障害――――俗に言う『二重人格』なのです」


 それが、御津宮紗枝の病気の、真実だった。

「お嬢様はかつてある少年に想いを寄せられました。しかしその思いは叶わず、お嬢様は少年に想われるがために、まったく別の自分を作り出してしまわれたのです。今この部屋の中にいる、あなた方が見た少女は舞花というのですよ」

 二重人格。

 誰もがなんらかの媒体で知っているだろう概念。現実とフィクションの二重人格はかけ離れたものだという話も聞く。

 その一つが、今目の前にいる。


「ある少年とは、北原悠樹その人に他なりません。お嬢様は彼に想われたいという自らの望みによって舞花を作り出された。ですがそれは、社会に不適合な二重人格という形を伴っていました。……様々な手を試みるも、舞花は影をひそめるどころかより存在感を増してきていまして、今では午後二時近くから就寝に至るまで安定して出てくるようになっています」

 だから、午前中しか授業に出られない。

「舞花の始まりは彼に想われたいという願望。ですので、こちらで機会を作り、お嬢様が彼に選ばれることになれば、願望は満たされ、プラスの変化が期待できるのです。風変わりではありますが、これはまさしく医療行為。ですが、仕組まれた茶番だと彼に悟られては、逃げられる可能性があります。ゆえに、秘密裏に進める必要があるのです」

 言いたいことはなんとなく分かるが、理解の許容値を大きく超えていた。なにより、この話はどこか中途半端で穴だらけだ。


 私は、光久の方を向く。

「ねぇ、なんで紗枝と悠樹に一対一の機会をセッティングするという計画じゃないの? ヒロインが五人もいたら、確実性に欠けるんじゃないの。だいいち、メインの紗枝は茶番ということを知っていて、満足できるわけ?」

 光久は薄く笑った。

「さて、私はお嬢様ではありませんので、詳しいことまでは分かりかねます。確かなことは、事の発端に『これ』が関係しており、お嬢様はそこにこだわっているということです。その方が、彼に目を向けさせやすいという理由もあるようで」

 光久が懐中から取り出したのは、一本のゲームソフト。時々メモライズ。端正な顔立ちの黒衣の男がギャルゲーを高く掲げている姿は、どこかシュールだった。

 つまり、あくまでギャルゲーの形式にこだわるというわけか。


「私はまだ、協力するとは言ってないんだけど」

「協力、したくなるはずですよ。勘付いておられると思いますが、我々はあなたと北原悠樹の関係性の本当のところを詳しく知っています。その気になれば、あなたが作り上げた芸術的な鳥籠を壊すことなど造作もありません。彼に伝えるだけでいいのですから。とはいえ、私もそんな野蛮を望むわけではありません。また、我々はあなた方のことを調べる過程で、あなたが今まで彼を守るために行ったいくつかの危険行為についても、概ね把握しております。例えば、北原悠樹に危害を加えようとした男子生徒たちが巻き込まれた『事故』の件など。協力の報酬の一つとして、それらが万が一にも表沙汰にならないよう、助力させていただくというのはいかかでしょうか?」

 丁寧な口調だが、内容はただの脅迫だった。

 私に、選択権はないらしい。


 こうなれば、私にできることはこのゲームを速やかに終わらせ、紗枝たちを私たちの日常から撤退させることだけだ。腹を括って、頭を切り替える。

 私たちはその後、ゲーム(当人たちによれば医療行為)の協力に関して契約書のようなものを書かされ、今回はそこで解散となった。

 

 以降も、日曜日の午前中を使ってヒロイン超会議は続けられた。

 悠樹の行動パターンによって分岐するいくつかのシナリオパターンの作成。決められた設定を大きく超えた行動はしないこと、十八禁じみた行動はNG、などといったルール設定。ヒロインごとの、ゲーム内におけるスケジュール作成。

 ぶっちゃけ、茶番でしかなかった。


 この間、私は自分の睡眠時間を削ってまで毎日行っていた悠樹への記憶の干渉を中断していた(精神状態のチェックだけは欠かさなかったが)。

 その結果、悠樹が昔の紗枝のことを少し思い出したという事実は、彼女を大いに喜ばせた。

「天もこちらに味方したようだね。ますますギャルゲーじみてきたよ。フフフ」

 とりあえず私にとっての最初の関門は、悠樹が私の「バレー部助っ人イベント」をどう判断するかである。まぁ、悠樹の性格からいって「行って来い」となる確率が高いのだが。



 *



 尋が、語りを中断する。


「ウソ、だろ?」

 作り話にしちゃ面白いが、到底現実とは思えないぜ、尋。

「本当だよ。信じる信じないはユウキちゃん次第だけど」

 俺の先程の疑問、御津宮の病気の正体は「二重人格」だったって? 舞花が御津宮の別人格で、二人は身体だけを見れば同一人物だって?


 そんなことを、信じろて言うのか。

 俺には、どう考えても二人が同じ人間には思えなかった。全く違う雰囲気の二人だった。

 明かされた事実以上に、俺だけがそれに気付かなかったということが引っかかる。なぜだ。なぜなんだ!

 疑問の糸が思考に絡みつく。糸の先には、なにかとても恐ろしいものが待っている気がした。だが、この状況でそれを無視することもできず、俺は黒き穴に吸い寄せられる。今まで目を伏せ続けてきた忌避すべき事実に。


「御津宮と舞花が同一人物だっていうことが、なんで俺は分からなかったんだ? というより、お前らはどうして分かったんだよ!? あんなに雰囲気の違う二人なのにっ」

 三次元人に対する強烈な苦手意識の正体。尋と二次元だけを見ることで、回避し続けてきたこと。俺が探していた、記憶の空白に潜む地雷。それは、


「そんなの決まってるじゃない。、だよ。顔で判断したんだよ。でもユウキちゃんは、?」

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