いつも隣にいた、君との約束。

四乃森ゆいな

幼馴染との約束「あんたのこと、好きだったんだよ」

 運命とは実に残酷なものだ。

 人には変えられることもあれば、決して覆せない決められたレールというのも存在している。それにぶち当たった時、一体どうすればいいのだろう。


 大人しくその運命に従うのもよし。

 耐えられずに運命に抗うのもよし。


 考えは人によって様々だ。

 それに『運命』という単語の意味は、決して変えられない運命さだめではない。

 いつだって抗えるのだ。

 ──たとえ、何年先のことになろうとも。

 変えたいという、その意思がある限り──



 *



「……寒いな」

「そりゃあ、今はバリバリの冬ですし」

「……帰りたいんだけど」

「ダーメ!もう少し……こうしてたい」

「………………」


 海の向こう側から流れてくる潮風は、冬場にはマジでキツいと感じた。

 今僕達は、学校から遠く離れた海へと来ていた。

 夏場であれば盛り上がるでろう空間も、今は冬場──それに相応しいほどの静けさが海岸沿いにまで広がっている。


 海に入ると危ないので今は石造りの階段で腰を下ろしている。

 そしてそんな僕の隣で頭を肩に置いている女子は、僕の幼馴染である。

 小さい頃からずっと一緒にいて、まるで“きょうだい”のように育ってきた。

 けれどそれも、今日でおしまい。


 明日になれば彼女は、遠くへ旅立ってしまう。

 中学三年の終わり頃──都会の高校を受けると聞き、正直スゴくショックを受けた。今まで一緒にいたことが当たり前に感じていた反動だろうか。


 けれど今はだいぶ落ち着いている。

 離れるということに、まだ全然実感が分からないけれど。


「……本当に行くんだな」

「なぁに?行ってほしくなかった?もぉ〜ワガママなんだから〜!」

「そうじゃない。頬っぺをつつくな」


 都会の学校に行く理由は知っている。

 コイツの夢──医者の勉強をするために、その専門学校へ行くためだ。理由を聞いて自ずと納得はしていた。……なのに、今になって寂しさが溢れてくる。


 こうしている時間が一生続けばいいのに──

 そう……思わずにはいられない。


 すると、幼馴染は肩から頭を離して静かにその場を立ち上がる。

 うーーん、と空に向かって手を伸ばして姿勢を整えた。


「……私も。私も、本当はあんたと離れたくないよ。一緒にいたい。今までがずっとそうだったから。あんたが、私の隣にいるのは当たり前で、あんた以外が私の隣にいることは不自然だった。……私ね。あんたのこと、好きだったんだよ」

「…………。……知ってる、何を今更」


 僕の口から微かに涙ぐんだ声が漏れる。

 僕だってそうだよ……お前が隣にいるのは当然で、お前以外が隣にいるのは許さなかった。僕だって──お前が、好きだったんだ。


「伝えておこうと思ってさ。勉強終えたらここに戻ってくるつもり。こんな田舎だからこそ、優秀な医者が必要なんだって思ってるから。だから私は医者を目指すことにした。……そのための、反動なんだよね、これが」

「………………」


 僕からは何も言えなかった。

 コイツが、医者という道に強く憧れと尊敬を抱いていたのは知っていた。

 僕達の住んでいるこの田舎には、優れた医者はいない。病院までは片道でも約二時間は掛かってしまう距離だ。

 だからこそ、この町には医者が必要だ。

 コイツの、昔からの口癖だ。


「──ねぇ。約束しよ」

「約束?」

「……まさかとは思うけど、私が叶わない恋をするとでも思ってるの?言ったでしょ、勉強終えたらここに戻ってくるって。……だからそれまで、絶対私以外の人を好きにならないでっ!」

「…………!!」

「絶対に、あんたを他の人には渡さないから!」


 束縛に等しい言葉だった。

 他の人だったら、こんなに独占欲の強い言葉を受け取ることなんて出来るだろうか。

 少なくとも僕は──彼女の小指に、自分の小指を回すことが出来る。


「……約束だからな。お前も、僕以外に惚れるなよ」

「りょーかいです……!」

「……もしかして、海に来たのってこういうことするため?」

「だって、告白するにはうって付けでしょ?」

「ったく……バーカ」

「あんたよりは頭良いっての!」


 中学最後の約束──

 僕の中で永遠に残る、彼女との再会の約束。


 運命なんて残酷なものだ。

 こうやって、新しく運命を作り上げて他への選択肢を無理矢理閉ざすことが出来てしまうのだから。

 僕には彼女みたいな、立派な夢はない。寧ろ自分が今何をしたいかも分からない。


 けれど、これだけは果たしたい。

 彼女との約束を──絶対に叶えたい夢を。

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いつも隣にいた、君との約束。 四乃森ゆいな @sakurabana0612

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