人類は滅びない

かどの かゆた

人類は滅びない

 ペルポ星人との宇宙戦争で、人類は随分数を減らした。ペルポ星人は非常に残酷で、捕虜という概念がなく、兵を皆殺しにしてしまうのだ。

 地球の隅に集まった最後の人類は、誰もが、人類はもう滅びるのだと思っていた。


「とうとう、あれだけ居た人間も、ここにいる百数人だけになってしまった」


「再興を夢見てやってきたが、どうやら、もう駄目のようだな」


「しかし、こうやって人類が滅びるのも、必然なのかも知れない。盛者必衰。これも自然の摂理なのだ」


 人々の間では、こうした考えが流行し、これ以上子を成しても不幸にさせるだけなので、人類はこの代で終わりにしようという話になった。

 そうやって人類は、滅びるはずであった。


 しかしある時、人類の集まっていた場所へ、ペルポ星人が現れた。突然のことに人々は驚いたが、もっと驚いたのは、彼らが次々と人間を捕まえ始めたことだ。


「これまで人間を殺してばかりだったというのに、どうして捕まえてくるのだ」


「もしかしたら、死ぬより酷い目に合わされるのかも知れない」


 そう考えてペルポ星人に捕まる前に自殺を試みる者も多かったが、それでも、人間の大半は捕まってしまった。


 そして、人々は身柄を拘束され、檻に入れられてどこかへ運ばれた。連れていかれ

た先は、何の変哲もない住宅街であった。


「これは一体どういうことだ?」


 人々は不思議に思う。何故こんなにも人間にぴったりな住処をペルポ星人が用意するのだろう。

 それぞれの一軒家の中には、食糧や電化製品、家具などが入っていた。それどころか、ゲームやスポーツ用品まである。住宅街は高い柵に囲まれていたが、この範囲内で十分暮らして行けそうな設備が、そこには揃えられていたのだ。

 当然のことだが、人々ははじめ、ペルポ星人を怪しんだ。


「何かの実験に使われるんじゃなかろうか。ほら、丁度俺たちがモルモットにしてきたように」


「いや、家畜にして食うつもりじゃなかろうか」


 しかし、ペルポ星人はいつまで経ってもそういった素振りを見せなかった。人々はこの住宅街で、それなりの生活を続けられたのだ。

 ただ、一つ困ったのは、家に備え付けのテレビをつけると、必ずアダルトビデオが流れるということだ。このことも、人間の頭を非常に悩ませた。

 ペルポ星人は物資が足りなくなると、必ずやってきて、人類にそれを与えた。自殺しようとすると、どこから監視しているのかそれを止め、その人に優しくしてやった。病気の人が居るとそれを必ず直してくれた。


 その目的が何なのか、人類は全く分からない。ただ、ペルポ星人が自分たちを絶対に殺さないようにしていることだけは分かった。

 もう殆ど滅びたようなものなのに、こんな狭い世界で、自分たちは何をやっているのだろう。

 そう思いながら、人類はそれなりの日々を過ごすのだった。






 ペルポ星人の人気司会者であるノルペは、ひな壇に居る芸人やタレントと一緒に映像を見ていた。

 その映像には、ベッドルームで性行為をする人間の姿が映っている。


「皆さん。これが滅びかけている人類の、命を育む姿です。私達が彼らにした残酷な仕打ちを、忘れてはならない。我々ペルポ星人は、贖罪のため、人類を滅亡させてはならないのです」


 ノルペが堂々と宣言すると、その場に居る全員が口々に賛同の意を示した。


「必死に生きようとしている彼らの姿を見て……なんか私、泣けてきちゃいました」


 ゲストのアイドルが目を潤ませる。スタジオは感動に包まれていた。そして、この放送を見ているペルポ星人たちからの募金が、どんどん集まっていく。


「人類は滅びない! なぜなら、私達が永遠に、責任を持って彼らを守るからです」


 拍手喝采。ペルポ星人はなんと道徳的なのだろう。種族への誇りを感じ、ノルペの口元からは笑みが溢れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人類は滅びない かどの かゆた @kudamonogayu01

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ