09 妖怪と山の秘密 1
この夏休み、ぼくは
おとうさんのほうのおじいちゃんとおばあちゃんの家は隣の市にあって、ぼくの家からは車で二時間ぐらいかかるところにある。来るときは、みんなでいっしょに来たんだけど、今日からはぼくだけここに残って、ひとりで泊まるのだ。
もう三年生だし、それぐらいだいじょうぶって思うんだけど、おかあさんときたら心配性なものだから、こう言うんだ。
「タマ、タケルのことお願いね」
「ニャー」
タマさんもタマさんだよね。それじゃあまるで、ぼくがダメな子みたいじゃないか。
こっちのおじいちゃんの家に来るときはいつもお泊りだから、タマさんもいっしょに連れてくる。
こういうのあたりまえだと思ってたんだけど、犬ならともかく、猫は連れていったりしないものなんだってね。クーのことがあって、クラスのみんなのペット事情を知って、よその家の猫がどんなふうなのかがわかって、ビックリした。
首輪をしてリードもつけてあるから、勝手にどこかへ行ったりしないのになーって思ってたんだけど、それはタマさんが猫又で、人間の言葉をちゃんとわかっているからだったんだなって、いまならわかるよ。
タマさんはとくべつな猫だから、平気だっただけなんだ。
うーん。でもさ、ぼくはともかくとして、おかあさんやおとうさんは、ふつうの猫は連れていったりしないものだってわかってるはずじゃない? おじいちゃんたちだって、べつにおかしな顔をしないで、タマさんを歓迎してるんだ。
みんながこんなふうだから、ぼくはこれがふつうであたりまえだって思ったわけで。
これ、ぼく悪くないよね?
おじいちゃんの家は、三方っていうところにあるんだけど、ここは山とか川とかが近くにある、いわゆる「
おかあさんのほうのおじいちゃんちは、市内の
そうそう、はぎのやのおまんじゅうは、三方の家でも人気があって、今回もお土産に持ってきている。お仏壇にお供えしてるから、あとでおさがりをもらうことになってる。たのしみ。
今年にかぎって、おじいちゃんの家で過ごすことになったのは理由がある。おとうさんの仕事先のひとが亡くなって、お手伝いとかお葬式とか、そういうことがいっぱいあって、おかあさんも知っているひとだったから、ふたりでいっしょに出かけなくちゃいけなくなって。
だったら、ぼくをここに残していけばいいんじゃないかって、そういう話になったみたい。
ちょっとだけビックリはしたけど、ぼく、お葬式はあんまり好きじゃないから、行かなくてすむならそっちのほうがいいよ。
お葬式が好きなひとなんて、そりゃあいないとは思うけど、ぼくがニガテなのは、ああいうところではいつもいじょうにおかしなモノが見えたり聞こえたりするからだ。動物のお化けとか、小人さんとかはあんまり怖くないんだけど、人間のユーレイはちょっとブキミなんだ。ぶつぶつ呟いてたり、目が怖かったり、血が出てたりするひともいて、そういうのは気持ちわるくなるの。
おかあさんは、ぼくがヘンなものを見たり聞いたりすることを信じてないっぽいから、秘密ノートを持つようになってからは、くちにしないようにしてて。だから、ぼくがいまでもお化けとか妖怪を見たりするのを、たぶん知らない。
おとうさんは――どうなんだろうなあ。
もしかしたら知ってるのかもしれないけど、なんにも言わない。そのかわり、ぼくが質問すると、ちゃんと答えてくれる。いろんなことを知っているんだ。
そんなおとうさんが、俺よりももっとすごいぞっていうひとが、おじいちゃん。
おじいちゃんは、字がすっごく上手で、県の美術館とかにも飾られたことがあるぐらい、すごいらしい。夏休みの習字の宿題は、いつもおじいちゃんにお手本を書いてもらうんだ。つながった文字も書けるけど、小学生に合わせて、ぼくにも書けるような字で書いてくれる。
ぼくの字はどうかって? ぜんぜん、からっきし。さらさらっと書けるようになったらカッコイイんだけどなあ。それこそ、このまえのコックリさん事件のときみたくハクさんに「おふだをもて」って言われたときに、さらっと書けたらカッコいいじゃない? 練習してみようかな。
「なに難しい顔をしてるんだい」
ニャー? と疑問符つきの声でタマさんが歩いてきて、ぼくのとなりに座る。家のなかだからリードはつけてないけど、首輪はつけている。どこにいるかわかるように、お出かけのときは鈴付きの首輪だ。
「お習字の練習をしようかなって思って。おふだが書けたらカッコよくない?」
「アタシも詳しくはないけど、ああいったものは上手い下手は関係がないんじゃないかい?」
「んー、でも見た目は大事だと思うんだけど」
「そんなものにこだわるのは、人間だけさね」
チリンと鈴を鳴らして、タマさんは首を振った。その音に反応して、おばあちゃんがやってくる。
「おや、タケルはここに居たんだね。ありがとう、タマ」
「ニャー」
たいした手間じゃないさとタマさんが言うと、おばあちゃんはニコニコ笑って、タマさんの頭を撫でる。
「タマはいい毛並みだよね、私もこんな髪の毛になりたかったよ。そうだ、タケル」
「なあに」
「タマは普段なに食べてるの? 一応、猫用フードは置いていってくれてるけど、量が足りなくなっちゃうかもしれないんだよ」
タマさんはパウチのやつとカリカリと、けっこう気分屋。食べないわけじゃないけど、シブシブって感じなのが見ててもわかる。タマさんがおしゃべりできるってわかってからは、どっちが食べたいか確認するようになったんだけど、そんなことおばあちゃんには言えないしなあ。
「んーと、キホンテキに、あげたものはぜんぶ食べるよ」
「賢いわね」
「猫用のじゃなくてもね、ふつうの魚も食べるよ」
「まあ、猫っていうのは肉食動物だしね。鳥を捕まえて食べたりとか普通だし」
「鳥?」
ビックリしてタマさんを見ると、すました態度で顔を洗いはじめた。これ、アタシは聞いてないよってやつだ。
タマさん、じつはハトとかスズメとか食べたりしてるのかな? なんか、想像つかないんだけど。
「家で飼ってる猫は、あんまり狩りはしないものかもしれないけどね。タマはわりとハンターなんじゃない?」
「んー、そうかも」
ニャーオ。
本能なんだから仕方がないだろう、ってタマさんが言うと、「なんだか文句を言ってるみたいだね」と、おばあちゃんが笑った。
□
おじいちゃんの家は、すぐそこが山だ。
なんとなくわかる。ぼくの家の近くにも山があるけど、名前はよく知らないもん。みんな「山」って言う。それでわかるし。
このへんは山が近いせいなのかわからないけど、夏でも夕方になるとけっこうすずしい。日陰になるからなのかなって思う。こころなしか、暗くなるのも早い気がするんだ。
お昼を食べたあと、タマさんをリードにつないで、ぼくは散歩に出かけた。ねっちゅうしょうにならないように、水筒も持ってるよ。
舗装されていない、せまい道を歩く。タマさんが歩くたび、チリチリと鈴の音がする。
山のほうに行くなら、タマさんといっしょに行きなさいっておじいちゃんにも言われたんだけど、なんかおかしくないかなあ。まるでタマさんがいっしょなら安全みたいなかんじ。ふつうはさ、猫が逃げ出して、山に入ってもどってこられなくなっちゃいけないから、猫は家に置いておきなさいっていうもんじゃない?
「タケル、どこに行くつもりなんだい?」
「んーと、べつに目的があるわけじゃないんだ。夏休みの宿題で絵を描かないといけないから、せっかくならこのへんの絵を描こうかなって思っただけ」
絵になる場所ってけっこう少ない。
山には、おじいちゃんといっしょに何度か登ったことがあるんだ。地元のひとたちが山菜を取りに行くこともあるから、道っぽくなってるところはたくさんあって、そこから草地には入っていかないようにすればだいじょうぶって言われてる。それでも迷ったときのために、おばあちゃんのケータイを借りてきてるから、まあへいきだと思うよ。
どこからを「山」って呼ぶのかわからないけど、木がいっぱいあるところの、じめっとした葉っぱを踏みながら歩いていると、もう「山のなか」なのかなって思う。なんとなく、坂道っぽいような気もしてくるし。
いつもはうるさいセミの声が、ここではちょっとだけ遠くに聞こえることがふしぎだ。
木の下にいると太陽の光もジリジリってかんじじゃないから、すずしい気持ちにもなる。タマさんが鳴らす鈴の音がチリチリいってて、よけいにすずしく聞こえるのかもしれない。
どこからかガサガサ音がするのは、なにかの動物なのかなあ。サルとかイノシシが出るっていうし。
ちょっと広くなってるところで止まって、水を飲む。
「タマさん、お水いる?」
目をやると、タマさんが草むらのほうをじっと見ていた。
風がないのに、ガサガサ音がする。
そうして、おなじ年ぐらいの男の子が出てきたのだ。
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