第19話 でもやっぱり使えるヤツがモテるる
月末の公演当日まで、上演する舞台での稽古が続くこととなった。
僕たちも、自然と気合が入る。
舞台となる板の間に立ったリア王も、架空のあばら家の中で張り切っていた。
「さあ、裁判じゃ! ワシの不届きな娘らを裁くぞ!」
道化が座り込んでぼやく。
「正気じゃないな、この爺さん」
僕の演じるエドガーも、いかにも放浪中のならず者といった態度で、その場に寝転がる。
「腹減ったあ!」
誰にも話を聞いてもらえないリア王は、自分ひとりの世界で荒れ狂う。
「まずはゴネリル! ワシを足蹴にしおって! リーガンも同罪じゃ!」
それを見ながら、エドガーはひとりつぶやくのだった。
「身につまされるのは、私も父から追放された身だということだ……だが、その父はどこへ行った?」
本来、自分の復讐譚を生きているはずのエドガーが、全く関係ない運命をたどるリア王に共感を示す場面だ。
いなくなった父親の行動は、実を言うと、それぞれの物語を結び付けている。
我ながら、次の展開へとうまく引っ張ったつもりでいたが、そこで演出の夕子が手を叩いて、いいところに水を差した。
そこで夕子はどうするかというと、やはりお気に入りの篠井一徳くんと話し込んでいる。
篠井はシーリングのバトンの端で、父親の伝手で手配された照明について、灯体がまだ届かない内から講釈を始めていた。
「照明も音響も、結局は配線です」
反対側の端にいる夕子が、目を固く閉じたり開いたりしながら、きまり悪そうに答えた。
「大会のときは、なんだかんだで会場スタッフの方にお願いしてたから」
ここは上級生の面子も何もあったものではない。
もっとも、篠井はそんなことなど気にもしない。
むしろ、電気回路の説明に夢中だ。
「配線そのものは、ポンプに水道管をつなぐ要領で考えればうまく行きます」
電流を水流にたとえているのだ。
そう言われると、灯体の接続が分かりやすくなる。
だが、僕たちには、根本的に理系のスキルがなかった。
回路図なんか示されても、その場で理解できるかどうか。
夕子も、そこは正直に告げた。
「みんな、数学とか物理とか弱くって……バトンに灯体固定するくらいしかできないんだ」
篠井は篠井で、謙虚なものだった。
「お互い様です、そっちは俺、やったことないんで」
そこで初めて、夕子はTシャツの胸を張った。
「それは教えるから、配線のしかた教えてよ」
篠井は目をそらすと、カクカクと不自然に頷いた。
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