第15話 先回りされるわダメ出しされるわでいいとこなし

 篠井が父親の車で帰ると、顧問もすぐさま帰宅してしまった。

 だは、僕はすぐに自転車を漕いで常楽寺へと取って返した。

 庫裏でご住職を呼ぶと、出てきた笑顔を見るか見ないかのうちに、用件を切り出した。

「無理を承知でお願いがあります」

 ご住職は、すぐさま混ぜっ返した。

「無理だと思ったらやらないことです」

 話を早くつけたかった僕には、そんな軽い冗談のやりとりをしている余裕などなかった。

「そういうの、僕、嫌いなんです」

「嫌いなことも、無理にやらないほうがいいですね」

 のらりくらりとかわされているうちに、荒かった僕の呼吸も落ち着いてきた。

「じゃあ、無理なことを敢えてお願いします」

 言っていることは最初とそんなに変わらない。

 だが、ご住職はゆったりとした口調で答えた。

「何でしょう?」

 僕は単刀直入に告げた。

「本堂を、月末の公演までに改修してください」

 それを聞くなり、ご住職は笑い出した。

「それはまた急な……部長さんは知ってますか?」

 相談もしていない。

 だが、ここは夕子に断る余地も、ゆとりもなかった。

「この件は、副部長の僕に一任されてます」

 ハッタリをかますしかなかったが、ご住職にはあっさりとかわされてしまった。

「お寺で嘘はいけませんね」

 そこはご住職、見事に看破してくれた。

 しかし、ここで引いたら、無理を通しに来た意味がない。

「何で嘘だって言い切れるんですか」

 子どものような屁理屈をこねて居直る。

 ご住職は柔らかく微笑んで、種明かしをしてくれた。

「さっき、篠井君が似たようなことを聞いてきました」

 七光り息子が、親の車で先回りしたのだ。

「何て……?」

 何を思いついたのか、気になって仕方がなかった。

 ご住職はスマホを取り出すと、僕に差し出した。

「本堂の中、SNSに上げたろ?」

「だから来たんです」

 改修が始まったばかりなら、まだやり直しが図れるのではないかと思ったのだ。

 芝居ができるようなスペースを本堂に確保してもらえれば、照明は三脚に載せたパーライトでなんとかできる。

 だが、篠井が考えた事に比べれば、そんなことは小手先のごまかしに過ぎなかった。

 ご住職は、実に楽しそうな口調で教えてくれた。

「それ見て、照明の灯体、本堂に吊れないかって」

 あまりにも無茶な提案に、僕のほうが呆れかえった。

「いくらなんでもそれは……」

 ご住職はというと、ゆったりと頷いて、庫裏に上がるように促した。

「そう思うよね……来なさい」

 後について歩いていくと、廊下の先には、突貫工事で改修が進む本堂がある。

 その中を見た僕は、開いた口が塞がらなかった。

「なんてバチ当たりな」

 僕は本堂の中をスマホで写真に撮って、夕子宛てに送信した。

 お寺のタダ働きは余すところ5日。

 この5日間が終われば、部活も盆休みに入ることになっていた。

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