第7話 もしかして、妬いてる?
だが、住職は朝から庫裏で、ツナギを着たリフォーム業者と思しき男たちと話し込んでいた。
話をすることが叶わなかった篠井は、寺の周りの掃き掃除だの草むしりだのを、1時間かけて徹底的にやって帰っていった。
その間、夕子は篠井と2mのソーシャルディスタンスを取りながら、何のかんのと尋ねたり、答えたりしていた。
だから僕が声をかけることができたのは、他の部員全員が帰ってふたりきりになったときだった。
「何で急に」
もちろん、篠井の入部のことだ。
夕子はしれっと答える。
「いや、顧問から頼まれてね、昨日」
夕子が面倒臭そうに目の前にスマホを突き出す。
その画面で、謎はすぐ解けた。
「これかよ」
夕子が半ば感心、半ば呆れたようにため息をつく。
「しっかりSNSで発信されてるとは」
顧問が篠井の申し出を、ふたつ返事でひきうけるのも、無理はなかった。
「地元の高校の演劇部がボランティアで明日から……って、ウチしかないじゃないか」
僕がツッコむと、スマホ画面では説明しきれないことを、投げやりな口調で夕子が補足した。
「ぜひ、ご住職と話がしてみたいから、すぐに入部させてくれって、顧問のところに」
「すぐに連絡とは恐れ入ったね」
ちょっと行動が極端すぎやしないかと思ったが、夕子はそうでもないらしいようだった。
「いいな、それ」
真顔で言うのが面白くなかった。
僕も少し、ムキになる。
「思い付きじゃないか? ただの」
だが、夕子は正面からそれを否定した。
「そうかな……最短ルートじゃない? ご住職と直に会って話す口実としては」
「何か、スタンドプレーやりそうでイヤだな」
何だか面白くないので悪態をつくと、夕子もまた、怪訝そうに尋ねてくる。
「もしかして……なんか嫉いてる?」
「何で僕が?」
つい、声が裏返る。
だが、夕子は僕を追及することはなかった。
「他の部員、そんなふうに言ったことないから。建義くんは」
そう言われて、ちょっとドキっとした。
だが、ちょっと声を荒らげてみせて、その場を取り繕う。
「後が心配なんだよ、後が」
夕子は、困ったような顔で、ぼそりと答えた。
「後って……これ済んだら、私たち引退だよ」
僕の胸にも突き刺さるひと言だった。
だから、そこからは敢えて話をそらす。
「2年生のことだよ」
夕子も、そこには納得したようだった。
寂しげに、澄み渡る朝の空を見上げてつぶやく。
「まあ、入らなかったしね、1年生」
雲ひとつない青空である。
そのてっぺんが、少し高くなったような気がした。
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