第9話
魔法都市ドニーに到着するなり、俺たちは冒険者ギルドを目指した。
ここに来るまでに遭遇した魔物はグレートスコーピオンに、ホワイトグリズリー、ブラックウルフ、トレントとそれぞれの素材を引きずるようにして持ってきたので、売却してしまわないことには宿に泊まることもできない。
さすがに生ものは…。
「ここですね」
魔法都市といっても、町の雰囲気そのものは王都とそれほど変わりはなかった。ただ、立地がおもしろい。
ウルの山の中にあるとは聞いていたけども、実際には山頂にできた巨大なカルデラ湖の中心部の島が街になっていたのだ。本来なら中心部は火口ということになるはずだが、完全な死火山で中心部が陸地になっているらしい。
湖の中央に浮かぶ島にかけられた長い橋を渡ってドニーの街に入った。
「すみません。素材の買取りをお願いします」
ネルが代表して買い取りカウンターの40代くらいのスタッフに声をかける。俺とフランは、持ちこんだ素材をカウンター横のスペースに並べていく。
「かしこまりました。それでは、冒険者カードの提示をお願いします」
「はい」
彼女がカードを取り出すと、スタッフが目を白黒させた。たぶん、彼女がEランクの冒険者ということで驚いたのだろう。そもそもこの街は中級クラスの魔物の討伐ができなければ、たどり着くことすらできないのだから。だからか、すぐに俺やフランに目を向ける。
「えっと、念のためにお二人のギルドカードもよろしいでしょうか?」
「はあ、かまいませんよ」
「ありがとうございます…え?」
街の入り口でも似たような反応だったので、気にすることもなく俺とフランがそれぞれギルドカードを出すと、余計にスタッフを驚かせてしまったようだ。
「こちらの素材は皆さんで?」
「そうですけど、何か問題あります」
「いえ、そういうわけでは…それでは査定の方をさせていただきます。グレートスコーピオンの爪が6つに、毒針が3つ。それから……(中略)……以上で、54万ダリルになります」
「「!!!?」」
フランとネルが目が飛び出る勢いで驚いているけど、俺も驚いた。
ぶっちゃけすげえ。
こっちの世界の通貨は、ほぼほぼ日本と同じって考えてる。1円=1ダリル。
ちなみに1ダリルが青銅貨で、10ダリルが銅貨、100ダリルが銀貨、1000ダリルが青金貨、10000ダリルが金貨になっている。その上に、白金貨と聖金貨がある。
「ご、ごじゅうまん!!」
「ね、ね、ね、ねえ、フランどうしよう(あわわわわっ)!
あまりの金額にカウンターに並べられたコインを震える手で受け取っている。
金貨54枚。
ずっしりと重い。
彼女たちEランクではギルドの報酬で一回5000ダリル程度が関の山らしい。そう考えると、普段手にする100倍以上のお金なのだから驚くのも無理もない。下級の魔物であるワイルドボアを一頭丸ごと売ってもそんなものだった。
俺としてもあの程度の魔物の討伐でこの金額は驚きだ。日本円と同じって考えても54万円は生まれてこの方手にしたことのない大金である。
正直、こんな大金を持ち歩くのは怖い。
「なぁ、銀行とか預り所ってないのか?」
「銀行?なにそれ」
首を傾げる二人に代わって、ギルド職員が助け舟を出す。
「ありますよ。あちらの窓口にお越しください」
彼が示したのは反対側のカウンター。
なんだ、あるんだ。
そりゃ、そうか。こんな大金をみんなが持ち歩いていたら強盗が横行するだろうからな。それに紙幣もない世界ではかさばりすぎる。
銀行という意味を理解していない二人を連れ立って、そっちのカウンターに足を運んでみる。
「いらっしゃいませ」
「あの、銀行を使うのは初めてなんで、システムについて教えてもらっても?」
「はい。かしこまりましたーー」
彼の話によると、ギルドカードにキャッシュカードのような機能を付与することができるらしい。ギルドカードは最初に、ステータス水晶を用いて本人登録しているため、偽造できない魔道具の一種なのだ。
ギルドカードを提出し、本人が預金確認用の水晶に手を添えることで、カードに記憶された所持金が分かる仕組みだそうだ。そこで、入金と出金が可能になる。
「それでは、ご利用されますか?」
「お、お願いします」
ネルが緊張気味にさっき手に入れたばかりの金貨54枚入りの袋をカウンターにドスっと下す。
「ねえ、本当に私たちと同じパーティでいいの?」
「問題ないって。そっちこそいいのか?」
フランが聞いてくるので逆に聞き返す。
素材の売却益の取り分について、俺は均等に分けようって言ったのに、二人があまりにも固辞するもんだから、それなら一緒のパーティとして活動することを提案したんだ。それで、何とか納得してくれた。これなら取り分なんてものはない。
なので、いまギルドカードに付与している口座もネルを代表者として登録している。
「それでお預かりはおいくらにしましょうか?」
「えっと…」
水晶に手を置いたネルが俺とフランを振り返る。さすがに54万という大金は予想外だったので、まったく話し合いができてなかった。
「とりあえず、金貨50枚でいいんじゃないか。残りは宿代とかで使うだろうし」
「そ、そうですね。それじゃあ、金貨50枚分で」
「かしこまりました」
そんなわけで、俺たちパーティーの貯金50万ダリルが出来上がった。
「じゃあ、宿を探しに行こうぜ」
「あ、その前にステータス確認してもいい?レベル上がった気がするんだよね」
フランがちょっと嬉しそうな笑みを浮かべて、ギルドのカウンターに話を持っていく。ギルドのカウンターで、銅貨2枚の使用料を払ってステータス水晶は借りられるらしい。他人に見られないように、ちいさな個室も貸してもらえる。
そそくさと水晶を借りて俺たち三人は3畳ほどの小さな個室に入っていく。
「それじゃあ、私から」
と、フランが水晶に手をのせると、
氏名:フラン
LV:22
STR:701
VIT:668
MAG:349
DEX:528
AGI:776
「おおーレベルが5も上がってる!!やっぱり中級クラス倒したのが大きいんだ」
「フランすごい!!。じゃあ、私も」
氏名:ネル
LV:22
STR:303
VIT:355
MAG:785
DEX:765
AGI:465
「私もです。すごい。魔力が結構上がってますね」
「で、イチロウのステータスも見せてよ」
隠す必要もないので、俺は水晶に手をかざす。
氏名:ロキ
LV:12
STR:1503
VIT:1331
MAG:1200
DEX:1199
AGI:1922
「イチロウじゃないじゃん」
「それは、気にしないでくれ」
「話には聞いてたけど、出鱈目ね」
俺のステータスを見ながらフランが大きく息を吐く。二人はレベルが5つも上がっているのに、俺は2つしか上昇していない。この辺の成長の遅さも、王都の連中には呆れていた。武神の加護がありながら、なんでそんなにレベルアップが遅いのだと。
この世界では魔物の討伐そのものが経験値となるわけではないらしい。筋トレでも見えないところで経験は蓄積されていくそうだ。そして、フランやネルのレベルの急上昇からもわかる通り、格上の相手との闘いというのが、経験値の習得としては手っ取り早いのだ。つまり、中級程度では俺にとっては格下ということなのだろう。だから、得られる経験が少ない。
俺たちは水晶を返却して宿に向かった。
いつもは一泊1000ダリル程度の宿に泊まっている二人だけど、この日の宿は一泊3000ダリルといつもの三倍である。魔法都市の特殊な立地の所為で、物価が高いというのもあるらしいけど、それにしても豪華な部屋だった。
明日はいよいよ魔法図書館である。
ネルも夕飯を食べているときもどんな本が置いてあるのか興奮して話していたが、俺も楽しみである。魔法の扱いは得意ではないけど、どんな魔法があるのか興味は尽きない。
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あとがき
読了ありがとうございます。
主人公の冒険者登録時のステータスを一部変更しています。(第三話)
なので、初期ステータスとして、魔力はネルのおよそ倍くらいに変更しました。
8/29さらにステータス変更
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