次世代からの反逆

高柳孝吉

次世代からの反逆



全く、昨日のケアマネージメント業務、なんだったんだ?新しいおじいちゃん、もとい利用者様が来なくなるって、急に言われてもこちとら予定や受け入れ体制など完璧に近かったんだ。それがこのざまか。俺は肩を落として、出勤する、筈だった。ーあんな邪魔が入らなければ。


俺が小さかった頃、そりが合わない幼なじみの゛くそ゛ガキ(断っておくが、俺は、貧乏ながらも、お坊ちゃんだ。少なくとも奴よりは数十倍品格があったね)と、よく大喧嘩した。だいたい両方泣いて終わる貧弱な結末で、強さ(弱さ?)は同じ位、いつでも引き分けに終わった。ー只、一回だけ奴が勝った時があった。戦っている最中、俺が謎のけつまずきをして、その一瞬を狙って、奴は俺をぼこぼこにしやがった。俺のつまらない名誉の為に断っておくが、奴が勝ったのは、後にも先にもあれ一回だけだ。ー同じ中学に上がっても、それは続いた。レベルの低いライバル関係は、特技のスプーン曲げでも変わらなかった。俺のはやはり貧弱ながら゛超能力゛と疑わなかったが、奴のはきっとインチキだったにちがいない。ー奴にそんな小細工をする頭や力などある筈もない、という事に、俺はこの時点で気づくべきだった。


暗い気持ちで出勤する途中での出来事だった。俺は駅に向かって歩いている途中で、いきなり数人の男に囲まれた。チンピラーーならまだ良かった。スーツをきちっと決めた男達が俺に冷静な、逆に言えば機械的な口調で、こう言った。

「早く、手を引け」

ー一瞬なんの事かわからなかった。呆然としていると、

「わかったか、早く、手を引くんだ、さもないと…」

次の瞬間、俺のみぞおちに鈍痛が走った。相手は俺にボディブローをかました手をゆっくり引いた。ー俺は、あることをやっと理解し始めた。今、俺は何だかわからないが、゛大変゛ヤバい状況に置かれてしまっている、と。今の男が、肘を引いた。次のパンチが来る。ーそう思った次の瞬間、男達は、散り散りに吹き飛んだ。

「完成している!遅かったか!」

男達は、キョトンとしている俺を尻目に、゛何か゛の第2波が来ると感じたのか、駅とは反対方向に逃げ出した。みぞおちを無意識に押さえてまだ馬鹿面して男達を見ている俺に、一人の少女が、駆けよって来て、

「お父さん。大丈夫?」と言った。


実は、俺には隠された恐るべき超能力が備わっていて、それがあのピンチに火事場の馬鹿力という奴で、一気に目覚めたのか。それとも俺の遺伝子を受け継いだこの子が゛力゛を発揮してやったのか、それはわからない。ーとにかく、助かった。奴らの襲撃の意味は、わからない。何者なのかも。尻尾をまいて逃げだ。奴らの一人が落としていった名刺には「不動産業者」とあったが、どうせ嘘っぱちだろ。だが、住所と電話番号は本当なんじゃないか。警察に届けよう。とりあえず登校途中だったという娘を学校に送り届けて、俺は交番に行った。お巡りさんにその旨を伝えると(吹き飛ばした事を言う、という愚はやらかさなかった)絡まれる事件はよくある事なのか大して対応してくれなかったので、事態を重く見ている俺は、警察署に行って、事情を話した。ちくしょう、今日の仕事、どうしてくれるんだ。お巡りさんではなく、上の人にまず名乗って説明したところ、

「ああ、それは大変でしたね。今から、私と一緒に、その不動産屋とやらにご同行願えますか?」

その不動産屋に、さっきの奴らは、いなかった。聞いてもそんな連中は、見た事もないという。ちっ、あの名刺、まったくのでたらめか。それとも社長と名乗る奴が、でたらめを言っているのか。その不動産屋をあとにして、自ら同行してくれた警部とおかしいですねと話しながら歩いていると、さっきのスーツの連中を見かけた。

「あいつらです、あいつらです!」

躍起になって、警部と奴らのところに行くと、奴らは、なんと銃を構えた。瞬間、警部も銃を抜いた。しかし、狙いを定めた先は、俺だった。

「超能力者が、壮大な計画を立てていることは先刻承知だ。それは国、いや、世界を脅かすほどの恐るべき計画だという事もな」

警部が、引き金を引いた。

次の瞬間、絶叫が響いた。弾丸は空中で破裂し、消し飛んだ。娘が、頬を押さえて立ち尽くしていた。男の一人がギターケースのようなものからマシンガンを抜き出し、娘に照準を合わせた。瞬間、男はけつまずいた。

「まだ、お前との勝負はついてないんでな!」

幼なじみの男が、マシンガンを奪いスーツの男をぼこぼこにした。そしてマシンガンを構えるまでもなく、次の瞬間には゛敵゛全員一致で霧散していった。


「なんとなく想像は膨らむ。お前、一体何を企んでる?」

「いや、単に、超能力者がその隠された能力を発揮し始めている、それも全世界規模でな、それを、国家レベルで恐れ出している。゛俺たち゛はそれから身を守ろうとしているだけさ。ただ、それを計画を練ってやっているだけだ」

眠そうな目をしている娘の手を引きながら三人でゆっくり歩き、歩きながら話した。

「お前仕掛けたな、あん時も」

「ガキの頃の話しか。そうでもしなきゃ、あの時俺は負けてたかも知れなかったんでな」

「この卑怯もんが」

来るべき戦争に備える前に、俺達は久しぶりに声を揃えて笑った。 ー完ー

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