第6話:入り口
週末、
商店街のアーケードの入り口に着き緋は自転車を止める。そして、アーケードの通路の真ん中に置かれた錆びた看板の指示に従い自転車を押して歩き始めた。
約1.2㎞ある商店街の半分くらい来たところで緋はスマホで場所の確認を始める。
「あと半分。アーケードの端まで行こう」
スマホをポケットに入れて再び歩き出す。週末だというのにほとんど人とすれ違うことなく歩く。歩きながら初めて喫茶店のような店に入ることに少し緊張していた。
アーケードの屋根が途切れ、正面にはこの市で一番大きな駅のビルが、その下にはバスのターミナルが見える。アーケードの端に着いた緋は再びスマホの地図を見た。地図の赤いピンは路地を一本入ったところにある建物を指していた。
「はぁ、またか」
緋は小さくため息をついた。スマホのマップに示された自分の現在地を示す印がぐるぐる回って正確な方角を示さない。緋はアプリの再起動を試していた。
結局、再起動してもよくならず。緋はスマホを閉じ左側の細い道に入る。周りを見渡しながらゆっくりと歩く。しかし、あるのは古くなって薄汚れた建物だけ。コーヒー店らしき入口は見つからず、小さな川にぶつかり川沿いの道とのT字路になっていた。緋は商店街のアーケードに戻った。
次は、右側の細い道に入ってみる。この道は商店街と平行に走る大通りにつながっているだけだった。緋は再び商店街のアーケードに戻った。
結局、緋は商店街を少し戻ったところにあった豆腐屋に尋ねることにした。
店は開いていそうだが、人が見えないので緋は奥に声をかけてみた。
「あの、すみません」
奥から物音がして70歳ぐらいだろうか、白髪の老父が出てきた。
「あぁ、珍しい若いお客さんだねぇ。どうしたんだい」
店主らしき老父は優しく声をかけてくれた。
「あの、大変申し訳ないのですが道をお尋ねしたくて…このお店なのですが」
緋は申し訳なさそうに用件を話した。
すると、白髪の老父は笑顔で話しだした。
「ああ、ジョーさんのお店か、あそこは入り口が分かりにくいからね。どれどれ、店の前まで案内しようかね」
そういって店の前に出てきた。
「ほら、こっちこっち」
緋を待たずにそそくさと歩き始めた。
「あの、こちらからお願いしておいてなんですが、お店は大丈夫なんですか」
緋は悪いなと思い、歩きながら聞いてみた。すると老父は自嘲気味に話しだした。
「ああ、大丈夫、大丈夫。基本お客さん来ないから。夕方にいつもの常連さんが来るぐらいだよ」
緋は反応に困る。少し間が開いて緋は言った。
「今度はちゃんとお客さんとしてきますね」
「ありがとう、たくさん買って行ってくれると嬉しいわ」
なんてお世辞のような会話をしているうちにお店に着いたらしい。豆腐屋の老父の足が止まった。
コーヒーの香る日常 浅葱 黎 @wahara-73
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