第187話「引き上げる」
「休んだところで先に行くのかい?」
疲労がある程度回復したころ、ジョットは立ち上がって俺に問いかける。
「今日はやめておこう」
俺は首を横に振った。
ジーナとふたりだけ、もしくはティアたちといっしょならもちろん先に行く。
けど、このメンバーだと無謀になってしまうだろう。
「初日だから? 僕らは自覚しているよりも疲れているのかな?」
というジョットの発言を肯定する。
「そうだよ。察しがいいな」
まったく無知というわけじゃないんだなと俺が感心すると、
「いや、完全に聞きかじっただけの知識なんだ。何も調べないよりはマシかと思ってね」
ジョットは恥ずかしそうな顔で答えた。
「なるほど」
彼なりに下調べしていたのかと納得する。
「自分でやれることはきちんとやっておく姿勢には好感が持てるな」
と俺は称賛した。
ジョットがこの姿勢を見失わないかぎり、いいリーダーになれると思う。
……俺とは違って本物の。
外に出たときはまだ明るい。
「ふー」
ジョットたちはいっせいに深く息を吐き出す。
「何でだかわかりませんが、急に体が重くなったように思います」
とライルが不思議そうに言う。
「俺もだ」
カルロが彼に同調する。
「気が抜けたところで、疲れを自覚したんだろう」
と俺は告げた。
とくに彼らは自分たちだけで戦闘もやってもらったし。
ジーナがいた俺とは比べられないはずだ。
「なるほど……これは自分で実際に経験しておかないと、なかなか飲み込めなかっただろうね」
ジョットは微笑む。
「そうだろうな。君はとても立派な貴族だよ、ジョット」
俺は慣れてない世辞を言う。
貴族ってやつらは王国でも帝国でも面子とプライドを大切にするらしい。
褒めておいて損はないだろう。
「君にそんなことを言われると面はゆいな。帝国流の人心掌握術かい?」
ジョットは照れてるのか判断に難しい笑みで切り返してくる。
「……すまないが、俺は評価されてない皇子だったから、そういうのは学んでないんだよ」
と俺は自嘲で答えた。
下手に教わってこなかったからこそ、いまがあるとポジティブに受け止めているがな。
帝国の教えに染まってしまっていたのなら、国の外に出て学んで知り合いを増やそうなんて思わなかっただろう。
「失礼した。とてもそうは見えなかったもので」
とジョットがあわてて詫びる。
「気にするな。皇子らしくない自覚はあるさ」
間違いなく前世の知識のせいだ。
あと人格も前世にかなり寄っているだろう。
ジーナに一度は刃を向けられたくらいだもんな。
「そうでもない。君はとても立派だよ」
とジョットに言われたが、これはさっき褒めた返礼かな。
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