第186話「目で見ると説得力が違う」

「うっ、くっ」


 結論だけ言うと三人はかなり苦戦していた。


 まずカルロはひとりでもそこそこ粘れるんだが、ジョット・ライルのふたりとの連携が上手くいかない。


「どうやら仲は良くても戦闘での連携は練習したことがなさそうだな」


「御意」


 俺の感想にジーナがうなずく。

 俺たちはすこし離れた位置から、三人の戦闘を見ていた。

 

 と言ってもいつでも介入できる態勢は維持している。


 てこずっているときに新手に奇襲されるという最悪の展開だって警戒しなきゃいけない。


 幸い、そんなことはなく無事に三人は戦闘を終えた。


「な、何とか勝ったな」


 三人とも汗ばみ、息が乱れている。

 緊張感で神経をゴリゴリとすり減らしたんだろうな。


 俺だってジーナがいっしょじゃなかったら彼らと同じか、もっとひどいありさまになっていだろう。


 俺も彼らの動きを見て勉強するつもりのほうがいい。


「お疲れさま。回復アイテムを使うか?」


 と俺が聞くと、三人はお互いの顔を見合わせて首を横に振る。


「やめておこう」


 代表してジョットが答えた。


「休めば何とかなる程度の消耗だしね。君たちもいるんだから、アイテムはここぞというときに取っておきたいんだけど、どうだろうか?」


「その判断は正しいと思う」


 俺は彼の意見に賛成する。

 いまは回復を急ぐような状況じゃないもんな。

 

 ジョットたちはホッとしている。


 頼られてうれしいが、俺の判断は絶対じゃないんだよな……ここで言っても混乱させるだけか。


 欲張りすぎてもいけない。

 

「あるじ様、敵です」


 ジーナの一言でジョットたち三人が一気に緊張する。


「ここはジーナに片づけてもらおう」


「御意」


 ジーナを護衛に残すという手もある、というかそっちがセオリーだ。

 けど、人間関係を言えば残るのは俺のほうがいいだろう。


「戻りました」


「はや!?」


 あとジーナならこうしてすぐに戻ってくると期待できる。

 カルロとライルが驚愕のまなざしを彼女に向けていた。


「まいったね。自分たちで戦ったからこそ、彼女がどれだけ強いのか、想像できるようになってしまったよ」


 ジョットが力のない笑みを浮かべる。

 そこに気づいてくれたか。


 ジーナの有用性をアピールして、彼女を手元に置く理由をわかってほしかったので、何よりの結果だ。


「君たちも場合によって、護衛といっしょにダンジョン探索をおこなうって選択肢もあるだろうな」


 ライルやカルロはわからないが、ジョットなら家の護衛がいるはずである。


 ジョットの家の護衛戦力がレベルアップするのは、めぐりめぐって俺のためになってくれる──かもしれない。

 

「護衛とかい。彼らは警護に慣れていて、ダンジョン探索は慣れていないんだよね」


 ジョットは考えこんだが、時間は短かった。


「とは言え、対モンスターの経験を積ませるのは悪くはないね。護衛は強いほうが、こちらとしてもありがたいし」


 一瞬だけジーナを見たのを俺は見逃さなかった。

 やはり彼女の存在が説得力として機能したんだろう。 



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