第184話「まだいけるは危険のはじまり」
合計四度ほどシャドウドッグとの戦闘をおこなった。
カルロが一匹を受け持ち、残りをジーナと俺たちで処理する。
同じことをくり返す単調な作業だが、俺とジーナ以外は命がけという緊張感が大いに上回っていた。
「すこし休憩しようか」
と俺が提案したのは、カルロが目に見えて疲労しているからである。
自分がぬかれたら後衛の三人がやられるという責任感のせいだろう。
「まだ戦えますが」
カルロは不本意だという表情で抗議っぽい言い方をする。
「まだいける、という段階は危険の兆しだ。休んだほうがいい」
俺は優しく言い聞かせようと意識した。
まだいけるからもうちょっとと粘った結果、寝落ちしたあげくデータがセーブされていなかったという悲劇を経験したことがある。
こちらの世界で置き換えるなら……
「疲労でダウンしたところをモンスターの群れに襲撃されると目も当てられないだろう」
ということになるか。
「そ、それはそうですね」
想定していなかったらしく、カルロの顔がこわばる。
ジョットとライルは「うわぁ」という表情になった。
伝わったようで何よりである。
経験してみないと理解できないと言うより、痛い目にあわないと反省しないというべきか。
俺だってがんばってたデータが吹き飛んだことで「もう無茶はしない」と誓ったもんな。
「ダンジョン内で休憩ってどうやるんだい?」
とジョットが表情を引き締めて問いかけてくる。
「そうだな。まずはある程度広さがあるところがいいな。ちょうどそこにあるだろう?」
と俺は指で示したのは、日本でいう八畳間ほどの広さがある空間だ。
移動したあと、
「みんなに背中をあずけるように座ると、不意打ちされる危険が減っていい」
と告げる。
【クロガネの迷宮】だと壁や床、天井から襲ってくるモンスターはいないはずだけど、ジョットたちは初めてのダンジョンだからな。
変な癖をつけてしまったら申し訳ない。
「床や天井、正面の三つの方向からの敵襲を警戒しなきゃいけないけどな」
と言うと、
「背中を狙われないだけまだマシですね」
とカルロが答えた。
「そういうことだな」
感心しているジョットとライルに聞かせるように話す。
「ジーナ、人数分の水を頼む」
「かしこまりました」
ジーナは【アセット】から人数分の水とコップを取り出し、手際よく配る。
「あ、どうも」
「ありがとう」
ダンジョンでは場違いな行動にジョットたちは面食らっていた。
「ジーナは敵の接近を感じ取る力が優れているのと、今日は人数が多いからやっているだけだな」
誤解がないように説明する。
ジーナじゃなかったら、俺だって頼んだりはしない。
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