第183話「クロガネの迷宮2」
「うちの従者はそんな簡単に抜かれないから安心しろ」
とライルをはげます。
もしもジーナが簡単に突破される敵が出てきたら死へ一直線だが──と言ったら怯えるだろうから言わない。
「頼もしいですね」
と言ったライルの顔は少し引きつっている。
ジョットは若干震えているがまだマシだった。
シャドウドック二匹はそれぞれジーナとカルロに突っ込んでいる。
ジーナは軽妙な足さばきでかわしつつ、シャドウドックの注意を自分に引き付けるよう忘れない。
カルロは剣を使ってシャドウドックを止めたり牽制したりしている。
危なっかしい気配はあるが、慣れるまで仕方ないよな。
「どうすればいい?」
二人を見ていたジョットは落ち着きを取り戻したのか、俺に訊いてくる。
「カルロの援護をしよう。ここから君は何ができる?」
おそらくレベル1の神官だろうから、大したことはできないはずだが、もしかしたら何か持ってるかもと確認した。
「……【ヒール】なら一応覚えてるんだけど」
ジョットはちょっと恥ずかしそうに言う。
「まだ早いな」
【ヒール】はレベル1の回復魔法で、神官なら全員が覚えられる。
現状カルロにも必要な段階じゃない。
カルロの苦戦をずっと見ているのもどうかという気はしたので、
「【サンダー】」
タイミングを見て魔法を放ち、シャドウドックにダメージを与える。
つもりだったが、そのまま倒してしまった。
フリーになったカルロはもう一匹シャドウドックの横から脚を狙う。
「ギャン!?」
シャドウドックはバランスを崩し、ジーナが一撃で首をはねて撃破する。
「すごい」
ジョットとライルがつぶやく。
「まあ弱いモンスターだから」
サンダー一発で死ぬんじゃないかと不安だったが、その通りだった。
これだと下手に俺は手を出せないな。
「僕たちはまだまだということだね」
三人は落ち込んでしまう。
「最初はみんなそんなものだぞ。俺だって従者に何とかしてもらったんだから」
俺は笑ってはげます。
「そうなのか?」
三人の視線がジーナに向けられるが、彼女自身は平然としている。
「さすが帝族だね」
ジョットの反応は予想の範囲内だった。
ジーナは宮廷のほうからつけられた実力者だと勘違いしているだろう。
彼女の素性について話す気はないので、勘違いされているほうが好ましい。
「君らにこのジーナはいないかもしれないが、今は俺たちがいるだろう?」
そう、要するに養殖の提案である。
クロガネの迷宮くらいなら俺とジーナがいれば充分に踏破可能だろう。
「……お願いするよ」
ジョットの答えにためらいはなかった。
おそらくダンジョンにもぐると決めた時から、想定していたのだろう。
見栄をはることなく現実を受け入れているのは好感が持てる。
俺たちの将来のためにもベストを尽くそう。
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