第182話「クロガネの迷宮」
「【クロガネの迷宮】は壁・床・天井が黒い鉄みたいになっているのが由来らしいね」
とジョットが入り口に足を踏み入れながら話す。
ああ、そんな設定だったなとなつかしさを感じつつ、
「へえ、そうなんだ」
と相槌を打った。
敵の影はないので会話してもかまわないだろう。
初めてのダンジョンに緊張している三人のためにも。
「そこまでは調べてなかったんだね」
ジョットがちょっとうれしそうだったので、
「大したものだな」
感心して見せ、彼の自尊心をくすぐってやる。
政治とは人づき合いであり、相手を立てるのも作業のうち、らしい。
これくらいのことで喜ぶジョットは年相応の可愛らしさがあると言えるだろう。
と評する俺はいったい何様なんだって苦笑したくなるのは慎む。
「君に何もかも任せきりというのは心苦しいからね」
とジョットは言ったがこれは建前で、本音はトラフォード家男子としての面子だろう。
ジーナを数えないのは貴族社会の慣例だから気にしても仕方ない。
「頼もしいパートナーになってもらえそうで、ワクワクしているよ」
と俺は言う。
追従はともかく、リップサービスの一つくらいはと思ったのだ。
「はは、さすがに気が早いよ」
ジョットは笑う。
「前から敵です」
その時、ジーナが鋭く警告を放ち、三人が緊張でこわばった。
「ラスター、どうすればいい?」
少しの間を置いてジョットが指示をあおぐ。
悪くない判断に感心しながら、
「ジーナとカルロが前。ライルとジョットは俺の隣だ」
と伝える。
指揮官は経験の多い後衛がやるのが好ましいので、ジョットに言われなくても申し出るつもりだった。
ジーナは自然体だが、カルロはぎこちなく、それでも後ろの俺たちをかばうように立ち位置を変えて剣を抜く。
「ジーナ、守り優先だ」
「御意」
ここはクロガネの迷宮の第一階層だから、その気になればジーナ一人で片づけられられるが、それじゃ三人の経験にはならない。
現れたのは黒い犬のようなモンスターが二匹。
「シャドウドックか」
突進と噛みつきしか攻撃手段を持たない、弱いモンスターである。
群れになると厄介さが増すが、二匹くらいなら脅威にはならない。
「たしか噛みつきと体当たり、だよね?」
とジョットが訊いてくる。
ちゃんと調べていそうだと思っていたから期待通りだ。
「そうだ。ジーナとカルロが抜かれた場合が危険だ」
強くはないと言っても、後衛タイプだとシャドウドックのスピードに対処できない可能性がある。
「わ、わかった」
ジョットは少しひるみつつ、瞳には気合いが入っていた。
ライルのほうは少し心配だな。
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