第181話「迷宮前で待ち合わせ」
バザーの次の日、俺はジーナを連れて「クロガネの迷宮」の前に行った。
この世界、時計を持っている者はかぎられているからか、待ち合わせ時間は三十分単位と日本人だった俺からすればかなりゆるい。
実際俺たち以外はまだ姿が見えなかった。
「早かったようだな」
「あるじ様はもう少し力を抜いてもよいかもしれません」
なんてジーナに提案される。
「そう見えるか?」
「はい」
真剣な顔で肯定されてしまった。
たしかに破滅の未来を回避したい一心で、あれこれ試行錯誤してきた。
ずっと緊張しっぱなしだったのは事実だろうから、たまにはリラックスするのも悪くない。
「ダンジョン探索前に言うことじゃない気もするが……戦いの前の緊張はほどほどが一番だしな」
力が入りすぎるとベストな立ち回りができなくなってしまう。
俺がそんな状況にならなかったのは、自分よりもずっと強いジーナがそばにいてくれたからだ。
安心感があったし、死の危険に直面することもなかった。
「御意。こういうものを用意しました」
とジーナは微笑むと何とお茶を取り出す。
「たまにはいいか」
今日一緒なのはジョットたちだからかもしれないと思い、素直に厚意を受け取る。
二人お茶を飲んでいると一組のパーティーが、奇異なものを見る目で俺たちを見ながら通り過ぎて行った。
ダンジョンの前で従者とお茶を飲んでるやつがいたら、俺だって同じ態度を取ると思う。
初心者向けの不人気ダンジョンじゃなかったらなかなかつらいかもしれない。
と考えているうちにジョットたち三人が徒歩でやってきた。
「待たせて申し訳ない」
ジョットが恐縮する。
実のところ俺たちはマジックアイテムのおかげで彼らよりも圧倒的に有利だから、腹を立てるのはおかしいだろう。
「いやいや、大丈夫だよ」
とがめたりはしない代わり、情報を与えるつもりもない。
「いい匂いだね。紅茶かな?」
「ああ。リラックスタイムさ」
ジョットの問いにウソじゃないグレーな返事をする。
「なるほど。たしかに適度なリラックスがいいと聞くものね」
ジョットも知識として持っているようだ。
「水を持ってきたのですが、お茶のほうがよかったでしょうか?」
カルロが不安そうな顔になったので、訂正の必要を感じる。
「飲み物を持ち込むなら水のほうが合理的だ。手や体を洗えるし、水に弱いモンスターへの備えにもなるからな」
実のところお茶ってやつは、街の外を出れば「飲み物」から「嗜好品」にカテゴリーが変わると思う。
「ええ、そうですよね」
俺の答えを聞いて、カルロはちょっと混乱している。
「君が言っていることと行動が一致していないって僕らには見えるよ」
ジョットが苦笑した。
「余裕があるなら、リラックスのための嗜好品を持ってくるのはアリってことさ。もちろん自己責任でね」
と俺は伝える。
どう受け止めるかは彼ら次第だ。
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