第180話「バザー8」
焼き菓子はリンゴとカボチャのパイで、人気があるのは前者だった。
カボチャって苦手な子どもは多いイメージだったが、こっちでは違うんだろうか。
ジーナはリンゴ、俺は両方、ティアはカボチャ、サラはリンゴ、カレンは両方を選ぶ。
「俺とカレンだけなのか、両方は」
「男性だと時々いますね、両方という選択肢の人は」
カレンは遠回しに自分たちは少数派だと伝えてきた。
「そんなものか」
男と女の違いというわけじゃないらしい。
興味深くはあるけど、調べてる時間なんてないな。
「どっちも美味い」
かわるがわる食べながら感想をつぶやくと女性陣に笑われる。
「なかなか変わった召し上がり方ですね」
とカレンに言われた。
子どもたちがまじまじと見ていることに気づいてちょっと恥ずかしいが、今さらやめられない。
「子どもっぽい自覚はあるよ」
と言うとティアがくすくす笑う。
楽しそうで何よりだ。
「ラスターくん、バザー楽しんでいてよかった」
と思ってると同じことをティアに言われる。
「たしかに。楽しむのも目的のひとつだったのでしょうか」
サラが意外だと首を小さくかしげた。
「いや、結果的に楽しかっただけだな」
正直、自分がバザーを満喫するような性格だと思っていなかったのだ。
「心があったかくなる、いい催しだと思う」
帝国じゃあこういうのは期待できないだろう。
せっかくの楽しい雰囲気に水を差したくないから、胸のうちにとどめる。
「何かわたしもうれしくなっちゃう」
ティアがなぜか頬をゆるませた。
「逆に帝国がどんなところなのか、気になりますね」
なんてカレンが言う。
「やめておいたほうがいいぞ。いろんな意味で」
クライスター伯爵家のヒモ付きが来てもろくな未来はない。
そうじゃなくても女性聖騎士が活躍できる見込みは、帝国にはほぼない。
「本心なのでしょうけど、我々はあなたという人間を通して帝国を推し量ることになるという点は、加味してくださいね」
とサラから指摘されてしまった。
「ラスターくんが普通だから、帝国ってそんな悪い国じゃないかも? なんて思っちゃうね」
「それはない」
俺自身が一種のものさしになるというのは盲点だったなと思いつつ、ティアの言葉は食い気味に否定しておく。
俺がイレギュラーなだけで、他の連中は原作通りだからな。
「そんな力強く言わなくても……」
ティアのみならず、サラとカレンまでが困惑している。
「誤解を正すのは早いほうがいいからな」
と言うとジーナが小さくうなずいた。
「……覚えておきましょう」
サラが言ってティアに何事か話しかけ、彼女を納得させていた。
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