第179話「バザー7」
「肉料理があればいいんだが」
ポトフをたいらげたところで言う。
こちらの宗教は基本的に肉食は禁じられていないので、取り扱いがあっても不思議じゃない。
「あちらに売られていました」
ジーナがすかさず教えてくれた。
「へえ、行ってみようか」
食べ物に関しては注意してなかったので、彼女の目ざとさが助かる。
空になった食器を女性神官に返して、教わった先に移動すれば子連れの母親が並んでいた。
「子どもたちに人気なのか」
対外的にはたぶん俺たちも子どもとみなされる、という点はこの際気にしない。
「肉がきらいな子どもは珍しいかと」
ジーナが遠慮がちに言ってきた。
「そうだな」
うなずきながら物珍しそうな母子の視線を無視して、大人しく順番を待つ。
「へえ、あんたたちみたいな人たちも来るんだね」
肉を売っている有志の中年女性が俺たちを見て驚く。
近くに若い男性神官がひかえているので特に問題はないのだろう。
「ええ、知り合いに誘われまして」
当たり障りのない事実を並べて、木皿に鳥肉を乗せてくれる。
「若いのに大したもんだ。あんたみたいなのが増えないかねえ」
なんて言われたのは、俺の身分にだいたいの察しがついたからなのか?
答えずに一礼だけして鳥肉を食べてみる。
「塩がちょっとききすぎかな」
正直な感想を、ジーナにだけ聞こえるように漏らす。
「素材はあまりよくないのをごまかしているのでしょう。事情が事情なのでやむを得ないですが」
人の善意によって行われているバザーだから、いい食材が集まるとはかぎらないわけか。
「むしろ塩だけでこのように仕上げているあたり、調理した者の腕は悪くないかと」
調理もやってるジーナが言うくらいだから、腕がいい人なんだろうな。
「食材か」
たいらげて食器をやはり返却したあと、
「食材なら俺たちでも持って来れると思わないか?」
にやりとしながらジーナに言った。
「ええ。野生の獣やモンスターでもよいか、確認は必要になるかと存じますが」
まったくその通りだと思う。
食べ物関連は確認事項が増えそうだから、何となく考えるのは避けていたのだが。
「甘味も一応あるのか?」
「ええ。焼き菓子ならあります」
「子どもウケを考えるなら、肉か甘味だよな」
「おそらくは」
俺たちが視線を向ければ、やはり子連れの列ができている。
後ろに並んでいるとティアたちが合流してきた。
「美味しいよ、ここの焼き菓子」
とティアがニコニコしながら言う。
「そうなんだ」
たしかに男女の神官四名が忙しそうに働いている。
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