第178話「バザー6」
「楽しんでるか?」
ふたりきりになったところで訊くと、ジーナは目を丸くする。
「今日はもしかして休みだったのですか」
「……しまった。伝え損ねていたか」
俺は自分のミスに気づいて舌打ちしたくなった。
以心伝心って簡単にできるはずがないのに。
「てっきりバザーを通じて、王国市民の暮らしの調査をなさるつもりなのかと思っておりました」
「いや、そこは間違ってない」
ジーナが申し訳なさそうに打ち明けた考えは、実のところ俺の意図とぴったり合致していた。
ジーナには「ですよね」という目で見られるし、「やっぱり以心伝心ってあるのでは?」と思ったくらいだ。
「学びたいことはたくさんはあるからな」
【祈りの指輪】が普通に売られているという嬉しい誤算もあったんだが。
「私が気づいた範囲では七歳以下の子連れが多いようです。身なりは悪くなく、バザーに関心があるのは、それなりの層なのではないかと推察いたしました」
とジーナが報告してくれる。
「俺はそこは見てなかったな。ありがとう助かったよ」
俺が見ていたのはバザーに出る品ばかりだったからな。
どういう層が参加しているのか、注意していなかった。
参加層を把握していれば、できることも増えるだろう。
「お役に立てたなら何よりです」
ジーナもちょっと満足げだった。
「食べ物もあつかっているみたいだし、何か食べてみるか?」
食中毒になりにくい食材、料理のみで、いざという時神官がすぐ近くいるという条件だから、出せているんだろう。
「よろしいのですか?」
「ああ」
ささやかだが、ジーナへの褒美みたいなものだ。
正直に言っても彼女は遠慮するかもしれないので、
「俺が食べたいから付き合ってくれ」
と要求する。
「かしこまりました」
彼女が断らない言い方はズルいと我ながら思うものの、彼女のために使うのだからありだと言いたい。
「何から召し上がりますか?」
「ポトフかな」
いろんな野菜を煮込んだスープ料理は俺が知っているものとそっくりだし、おそらくハズレを引く可能性も低いはずだ。
あたたかいスープが喜ばれるのは冬だと思うが、今でもけっこう人気があるようで何人も並んでいる。
木で作られた質素なボウルとスプーンを受け取り、中年の女性神官によそってもらう。
具材はニンジン、ブロッコリー、タマネギ、キャベツ、だな……見た目は。
「美味しい」
調味料のたぐいは使われていないのか、純粋な素材の味だけで勝負しているが、これは悪くない。
「ふむ」
ジーナは一言漏らして、俺とポトフを交互に目をやっている。
俺のためにポトフを覚えよう、なんて考えてそうだ。
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