第177話「バザー5」
特に示し合わせたわけじゃなかったが、中央のところで俺たち五人は合流した。
「いかがでしたか?」
ジーナが俺に問いかけてくる。
「なかなかよさそうなものがあったから、ティアにプレゼントだ」
と言って俺は彼女の右小指に【祈りの指輪】をはめる。
「……えっ」
ティアは目を見開いて硬直し、カレンは「あらまあ」と言って手を口に当てた。
ジーナは何も言わず黙って見ている。
みるみるうちにティアの顔が真っ赤になり、
「一応聞いておきますが、女に指輪を送る意味、まさか知らないなんてことはないですよね?」
サラが少し声を低く、鋭くして質問してきた。
「右の小指なら、友情の表現だったはずだろ」
俺は即答する。
このメッセージ性について、帝国でも王国でも違いはないと原作にあったはずだ。
だいたい変な意味になるのなら、カレンもサラも黙っていないだろうに。
「わかっているならかまいません」
サラの返事に安堵したが、
「ただ、不意打ちでやるのは好ましくないです。この子が一瞬勘違いした責任、あなたにまったくないとは言えませんよ」
続いた言葉にうへっと言いたくなった。
「あ、勘違いだよね」
ティアは今気づいたと恥ずかしそうにつぶやく。
俺は何も悪くないはずなのに、良心が刺激されるような表情だった。
とは言え、ここで謝るのは違うし、からかうのはもっと悪手だろう。
「悪かったな。気をつけるよ」
「ううん! ラスターくんは何にも悪くないよ! わたしが勘違いしちゃっただけだから!」
謝るとティアがとんでもないと両手と首をふった。
このまま水に流してしまうことにしよう。
「そっちは何かめぼしい掘り出し物は見つかったか?」
とカレンに聞いてみる。
ジーナは見つけたとしても、自分の判断で買わないだろうと想像がつく。
「いえ、わたしたちは見回りと言ったほうがいいでしょうね」
返ってきたのは苦笑だった。
ジーナとカレンはともかく、ティアなら楽しむんじゃないかと思ったのだが。
子どもたちも参加する場所だから、彼女なりの責任感のほうが勝ったのかな。
「不審な人物は見当たりませんでした」
とここでジーナが報告する。
聖騎士も参加する都内のバザーで、めったなことがあるほど王国の治安は悪くないはずだしな。
……例の教団みたいなケースがないとは言えないので油断しないほうがいいけど。
「せっかくだし、わたしたちはサンドラ様とも回りたいのですが」
とカレンが申し出る。
「つまり俺とジーナか。かまわないけど」
俺とカレンという組み合わせ、向こうにその気がないならやらなくていい。
「では決まりですね」
サラにも異論はなかったのでスムーズに決まった。
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