第176話「バザー4」

「そうだな」


 と言って俺たちは三人との合流を目指しながら歩く。


「せっかくですから何かを買ったらいかがですか? 売り上げは寄付されるので、貢献になりますよ」


 ティアに提案されたので並んでいる品をもう一度注視してみる。


 雑巾、古着、ハンカチ、食器が多かったが、エリアを移ると大きめのカバンなども並ぶようになった。


「マジックアイテムがなかったら必要かもな」


 荷物をたっぷり収容できるアイテムは、ダンジョンを探索するうえで必須だ。

 

「本来は必要とする人が多いのですよ。わたしたちは例外でしょう」


 サラの生真面目な表情での指摘に小さくうなずく。


「ジョットたちと店に行った際に認識したよ」


 俺はこの世界において、常識な存在だとは言えなくなってしまっている。


 たまにはああやって、この世界の人たちの認識をインプットするのもいいなと思った。


「なるほど。余計なお世話でしたか」


 サラは何かに気づいたようだったが、これは深読みである。


「いや、当時はそこまで考えてなかったよ。今初めて思い当たった」


 彼女の頭も勘もいいことが、かえって読み違いを起こしたようだ。


「おや、そうでしたか」


 ティアは意外そうな反応をする。

 クールな子だからわかりにくいが、思ってたより俺は評価されている?


「ん?」


 並んでいる品が食器や装飾品になったのが珍しく、足を思わず止める。


「装飾品のたぐいもないわけじゃないんだね」


「ああ、お守りのたぐいですね」


 とサラが教えてくれた。


「教会関係者の出品ですよ。バザーで安く売るためのものですから、あまり強い効果はないのですけど、子どものために買っていく方はいます」


 なるほど、教会関係者が作った厄除けのたぐいなら、そりゃ買う人いるか。

 特に子どものためなら。


 ざっと見た感じ心をこめてていねいに作り上げられた品が並んでいて、見ていてなかなか楽しい。


「ん?」


 そんな中一つの品物に目を止める。

 まさかとは思うけどあれって【祈りの指輪】じゃないか?


 【祈りの指輪】は状態異常軽減と経験値が微増させる効果を持ち、しかも他のアイテムの効果と重複する。


 序盤から中盤にかけてお世話になる一品なんだが、まさかここでお目にかかるとは。


「……あれって俺が買ってもいいのかな?」

 

 さすがに購入予定があるのに横取りすることはためらう。


「いいんじゃないですか? あの品は売れ残ってるようですから」

 

 サラは興味なさそうに答える。

 売れ残ってるって、ティアがつけるために取られてるやつじゃないのか?


 ……俺が使いたかったくらいだけど、仕方ない。

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