第173話「バザーその1」

「これは古着かな?」


「うん、服ってけっこうお金がかかるし、子ども服ってすぐに着られなくなっちゃうから、こういう場で買うことが多いのよ」


 俺の質問にティアはよどみなく答えてくれる。

 俺たちは二人で手分けして荷物を運び、販売担当らしき男女に手渡す。


「見かけない男の子だね。ティアちゃんの知り合い?」


 さっぱりした服装をした気さくなおばさんが話しかけてくる。


「ええ。バザーがあるって話したら、興味があるみたいだから誘ったんです」


 明るく笑顔を浮かべてティアは対応していて、珍しいものを見た気分になった。


「あら、そうなの」


 おばさんは俺の全身をさりげなくチェックする。


「ティアちゃんも隅に置けないわねえ」


 なんて言ってからかう。


「やだ、そんなんじゃないですよー」


 ティアは恥ずかしがって否定しているが、表情を見ればいやがっていないことは差しがつく。


 ここは何も言わないほうが賢明だろうと思い、俺は沈黙を選ぶ。


「他の人のほうに行ってあげて」


 満足したらしいおばさんに解放され、俺たちは次の場所へと移動する。


「これはタオルなんですね」


「ええ。小さい子どもたちがいる家庭は、タオルも消耗品あつかいになるみたい」


 とティアに教わった。

 子どもがいる家庭に需要がある品物が多いようだった。


 今のところだが、武器防具はもちろんアクセサリーのたぐいも見られない。

 ダンジョンでドロップしたものを持ち込んでたら、浮きまくっていたな。


「これ、俺が出品しようにも出せるものがないかもしれないなぁ」


 とひとりごとをこぼす。

 俺が着なくなった衣類を取りに帰るのは難しいだろう。


 そもそも使わなかったものを保管しておく文化が帝室にあるのか疑わしい。


「なら他の形で貢献すればいいじゃない? 今みたいに」


 とティアは微笑みながら指摘する。


「そうだな」


 本来の目的は王国の教会と接点を作り、ティア、サラ、サティとの関係を進めることだ。


 バザーでの出品は手段の一つにすぎないので、こだわるのは本末転倒だろう。

 わかっているけど、何となくすっきりしないのは俺が甘いからだろうか。


「知り合いを連れてくるってだけでも充分でしょう。ラスターくんとジーナさんが初めての参加でも喜ばれてるよ?」


 まるで俺の気持ちを読んだかのように、ティアが提案する。


「……顔に出てたかな?」


「うん、今のはわかりやすかったよ」


 ティアはくすっと笑って肯定した。

 

「女の子って察しはいいと聞くけど、本当だなぁ」


 ジーナにも肝を冷やされたことはあったけど、女の勘は怖い。


「ラスターくんはわかりにくいほうよ。たまにわかる時があるだけ」


 なんてティアに言われて、俺は表情をとりつくろうので精いっぱいだった。

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