第172話「ふりわけ」

「いえ、ラスター殿が準備の手伝いをとおっしゃったので」

 

 カレンから事情を聞いた二人は特に驚きを見せなかった。


「ラスターくんなら言いそう」


 ティアにいたっては納得したとばかりに微笑んだくらいだ。


「なるほど、そのほうがいいかもしれませんね」


 サラは認めたあと、ちらりとジーナに視線を移す。


「ただ、ずっと二人組だと目立ってしまうと思いますが?」


 まあ、普通の人は従者を連れていたりはしないだろうな。


 ジーナに俺を主人として立てるのを一時的にやめろって言っても、器用にできるのか厳しいという点も、俺とサラの考えは一致している。


「お前に指図されるいわれはない」


 ジーナの返事は冷ややかで、俺とサラは同時にため息をつく。

 忠犬なのはいいのだが、こういう時頑固なのは少し困る。


「ジーナ。ここでは目立たないほうが正解だ」


「で、ですが……」


 俺が直接言っても食い下がってくるか。


「要は一人にならなければいいのでは?」


 カレンが苦笑しながら、交代でペアを作って動けばいいと提案する。


「知り合い同士がペアを作って動いているという形なら、多少は目立ちにくくなるはずです。同じことをやる人は他にもいるでしょうからね」


「妙案だな」


 俺の声にジーナを除いた面子がうなずきあい、カレンの意見を採用すると決めた。


「何かあればすぐに駆けつけられる位置にいればいいだろう?」


「かしこまりました」


 ジーナはまだ不満そうだったが、受け入れはする。

 駆けつけられる位置を確保する、というのが妥協ラインだったようだ。


「バザーにどういうものなら出せるのか、学ぶ機会だからな」


 ジーナも覚えておいてくれって言うとこくりとうなずく。

 彼女は記憶力もいいはずだから心配はいらないだろう。


「ではまずどういうペアになるかですけど」


 とサラが言うと、


「わたし、ラスターくんと組んでみたい」


 少し食い気味にティアが主張する。

 これには俺はもちろん、サラもカレンも驚いていた。


「珍しいですね」


 と評したのはカレンで、


「まああなたが望むなら、いいのではないですか?」


 サラはすぐにいつものクールな表情に戻って賛成する。

 そのあとちらりと俺を見てきたのは、異論はないかの確認だろう。


「俺はいいよ。よろしくな、ティア」


「…っ! はい!」


 何か思っていた以上にうれしそうな反応が見られる。

 カレンの微笑ましそうな視線はともかく、サラのけん制するような視線が怖い。


 「泣かせたら許さない」的なオーラを感じるのは考えすぎだろうか?


 ……さすがに考えすぎで、「ちゃんとエスコートしろ」的なメッセージだと解釈するほうが自然かな。

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