第167話「頑固なサティ」

「そういった立ち回りはもちろん必要だけど、想定外の状況になってしまったらどうする? という意味で予備のアイテムも持っておきたいんだ」


 と俺は告げる。


 自分で気づいたほうがいいんだろうが、経験が必要になってくることだし、気づいた時は死んでいる──なんてことがあるのがダンジョンだからな。


「なるほどね。想定外の事態なんて、全然イメージできないや」


 ジョットたちはうなる。


「ダンジョンにもぐった経験があるかどうかの差だよ」


 すぐに追いつかれる可能性だってあると思う。


 正直そうなってしまうとあとで困るかもしれないが……だからと言って突っぱねるのは違うよな。


「頑張ろう」


 三人はうなずき励まし合う。


「他に足りないものは何かないかな?」


 そして答え合わせだとばかりにジョットが相談してくる。


「『クロガネの迷宮』に関してはこれで充分じゃないかな?」


 荷物を増やしすぎてもよくはないからだ。

 備えは必要だけど、多すぎてもダメというところがけっこう難しい。


「ありがとう。助かったよ」


「頼りっぱなしで申し訳ありません」


 三者三様に礼を言われる。


「まあ近いうち三人に助けてもらうことだってあるだろうさ」


 俺は笑って受け取った。

 貸しと思ってくれるならありがたい。


「君が言ったようにけっこう時間が経過してしまったね」


 ジョットが懐から時計を取り出して言う。

 トラフォード家は次男坊でも懐中時計を与えられるのか。


 見栄の可能性も捨てきれないが、裕福だと思っておこう。


「そうだろう。今からダンジョンに向かうのはさすがに危険だから、休みの日にしよう」


 休みは土の日と安息日と二日あるので片方はジョットたち、もう片方がティアたちと行けばいい。

 

「わかった。引き続き世話になる」


 ジョットたちと別れて大通りをジーナとふたりで歩いていると、


「おい! 持ってきたぞ!」


 サティが大きな声でやってきて、木製の胸当てと小手と言える品物を差し出す。


「これは大したものだな」


 初心者用装備として市販されているものと比べても、差は小さい。

 無料でいいなら使ってみたい人だって現れそうだ。


「どうやら真面目に練習しているみたいだな」


「ふ、ふん! 約束は守れよな!」


 恥ずかしそうにサティはそっぽを向く。


「当然だ」


 俺は品物を受け取りつつ、ジーナに目で合図をする。


「パンは四つでいいな?」


「おう!」


 返事と同時にサティの腹がグーッと鳴った。

 

「意地をはるの止めるなら、腹いっぱい食わせてやるぞ」


「うるせー!」


 サティは乱暴に怒鳴り返す。

 頑固なところは原作のままだ。


 ……それとも俺じゃ説得できない、ティアじゃないと仲間にできないというパターンか?


 これは現実でゲームじゃないとわかっているけど、原作通りの部分もあるから楽観はできない。

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