第166話「必要なもの」

「君たちの分は?」


 ジョットはおだやかに問いかけてくる。


「俺たちはすでに持っている。けっこう便利な奴をな。だから三人分でいいよ」


 俺はあわてず答えた。

 

「そっか」


 ジョットは微笑を浮かべて三人分の【マジカルポケット】を頼む。

 何かの探り合いだったのか?


「次は持っていくものだけど……水と食料以外には何が必要になるかな?」


 ジョットはまた俺に問いかけてくる。

 答えようと口を開きかけたところで、やっぱり止めた。


「教えてもいいが、全部俺頼みになるのはお前たちのためにならない気がする。まずは考えて、必要だと思うものを提示してみてくれ」


 長い目で見れば俺の負担を減らしていけるはずだ。

 彼らとのつきあいが長くなるか、まだ断定できないんだが。


「そうだね。ごめん」


 ジョットは表情を消して頭を下げる。


「申し訳ございませんでした」


 ライルとカルロもすばやく後に続く。


「怒ったわけじゃないよ。お前たちを思っての忠告だったけど、聞く耳を持ってくれてうれしいよ」


 助言や忠告したら逆上する困った奴はけっして珍しくない。

 

「立派な男たちだ。うちの連中もすこしは見習ってほしい」


 自虐ジョークをまじえて、彼らの面子を立てておく。

 貴族社会って面子の立て合い、そして傷つけ合いらしいからな。


「はは」


 笑い話だと解釈したらしいジョットが声を立てる。

 三人は協議していくつかの品物を俺の前に差し出す。


「【キュアリーフ】、【毒消し】、【包帯】、【罠外しセット】か……妥当なところだな」


 実のところ入るダンジョンによって必要な品物は変わると言ってよい。

 もっとも今そんな意地悪な返しをする意味もないので、彼らを褒める。

 

 【キュアリーフ】は噛むと傷を癒してくれる不思議な緑色の葉だ。

 【毒消し】は小瓶に入った紫色の液体。


 【罠外しセット】は複数の道具が入った工具箱。


「ジョットや俺が使うための【マジックリーフ】か【マジックポーション】を忘れているな」


 その上で忘れてはいけない点を指摘して、赤色の葉と緑色の安いポーションを手に取る。


 どちらもそこまで効果がすごいわけじゃないが、行動に魔力を消費する職業(クラス)なら持っておきたいアイテムだ。


 もっとも強くなっていけばもっと効果が高いアイテムに切り替えていくのだが。


「魔力切れが起こらないように立ち回るのが重要だと思っていたんだけど」


 ジョットが目を丸くしている。


「我々がそうならないようにフォローしていくのが基本ではないのですか?」


 ライルとカルロも不思議そうに首をかしげた。

 見落としと言うよりは認識の違いだな、これは。

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