第162話「友達だろう」

「トラフォード家の次男と?」


 放課後になる前、ティアとサラのふたりを廊下で捕まえて連絡する。

 

「ああ。俺がツテを増やしておくのは、君たちにとっても悪い話じゃないと思うんだが」


 トラフォード家はティアに敵対的な行動をとっていないから、サラにとって許容できる相手のはずだった。


「もちろんですが、そこまで気を回していただかなくてもかまいませんよ」


 とサラがうっすらと笑う。


「残念だけど、わたしたちとだけつき合うわけにはいかないものね」


 ティアのほうはちょっとがっかりしている。

 

「この子を悲しませるのはやめてもらってもいいですか?」


 とサラは手のひらを返すようなことを言い出したが、目は笑ったままだった。

 彼女なりのジョークだろう。


「ふぇ!?」


 言われたティア自身は気づいていないらしく、耳まで真っ赤になって慌てふためいて、両手をふって何かを訴えようとする。


 見ていて楽しいのだが、ほうっておくのもあまりよくはなさそうだ。


「からかわれただけだぞ?」


 と言うとティアはハッとして我に返り、不満そうにサラを見つめる。


「ううう……」


「あら、ネタバラシされてしまいましたか」


 サラは楽しそうにくすくすと笑う。


「サラってたまにだけど、意地悪になるよね」


 ムスッという文字が浮かび上がりそうな表情で、ティアがサラをにらむ。

 ただし可愛らしさはあっても迫力はまったくなかった。


「仲いいよな、やっぱり」


「当然でしょう」


 サラは得意そうに胸を張る。


 そういう動作をされると、意外とボリュームあることがわかってしまうので、男の前ではつつしんだほうがいいと思うが……。


 指摘するための紳士的な表現を思いつかなかったので、あとでジーナからそっと伝えてもらおう。


「というわけで何日かはジョットたちとのつき合いをやろうと思う」


「わざわざお疲れさまです。律儀な方ですね」


 とサラに言われてしまった。

 律儀にやっておかないとあとが怖いからな。


「そりゃ俺たちって友達だろう」


 とは言わずになるべくあっさりとした態度で告げた。

 

「え? あ、そうか、うん」


 ティアは一瞬目を見開いたものの、すぐにうなずき納得している。


「まあそう言えなくもないですが」


 サラもさすがに否定しづらかったようだ。

 何度も一緒にダンジョンにもぐって、苦楽をともにしてきたもんな。


「じゃあまた今度」


「はぁい」


 友達と言ったおかげか、ティアの表情に明るさが戻って手をふってくれる。

 それを見たサラの機嫌もよくなっていた。


 ……うん、はっきり言っておいて正解だった。


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