第150話「巻き込めない」

「具体的なアイデアはあるの?」


 とティアがおずおずと聞く。


「ないわけじゃない」


 と俺は答える。


「伺いましょう」


 サラは慎重な態度で言う。

 ティアの安全や将来が懸かってるのだから、当然だな。


 ただし、同時にこれはひっかけの可能性もある。


「いや、ティアの状況を俺は知らないからな。できればこれは避けたいってやつを、まず教えてもらってもかまわないか?」


 と俺は言った。


 ここですぐにいいアイデアを出したら、「ティアの事情を知っているのか」とサラに疑われ、警戒されてしまう。


「現状はあまり目立ちたくないですね。そして同時に民衆のために何かをしたいという矛盾に近い状況です」


 とサラは答えた。

 いま目立つと他の王族に警戒されたり、敵対されるリスクがある。


 だが、同時に何もしないわけにはいかないってところか。


 俺は「このくらいなら大丈夫」と想定した範囲内でやってたが、彼女たちはそれも難しいのだ。


「うーん、それは矛盾があるかもしれないが……みんながやりたがらないことって何だろう?」


 俺は相談に乗りつつ質問をしてみる。

 この国の王族ならやったほうがいいこと、なおかつ他のメンツがやりたがらないこと。


 そういう小さいことをまずは積み重ねていくのは、原作主人公がやっていたことだ。


 原作だとサラとふたりで相談して決めていたんだが、俺がきっかけを作るのは問題ないだろう。


「下町の慰撫、廃墟の見回り、清掃などですね」


 とサラが少し考えながら答える。


「その中で俺たちにカレンを入れた五人でもできそうなものは?」


 俺がさらに聞く。


「……安全を考慮すればダンジョン付近の清掃などでしょうか」


 サラはそう返事する。

 

「なるほど」


 と気のないふりをした返事をしつつ、内心想定通りだとほくそ笑む。

 いまのところサティが絡む余地はない。


 清掃道具くらいなら入手手段に困らないからだ。

 

「じゃあ俺たちも入れてやってみるか?」


「それはまずいです」


 俺が言うとサラはきっぱり却下する。

 予想どおりだし、理由も想像はつく。


「あなたは異国の皇族。奉仕活動のたぐいに参加されるのはよくありません」


 と彼女は理由を話す。


「そういうものか」


 俺は納得したふりをする。


 厳密に言えばイメージがよく、王族たちにも人気がある活動ならできるんだが、不人気でイメージよくないことはできないというところだろう。


「ならラスターくんも参加できるやつも考えたほうがいいんじゃない?」


 とティアが口をはさむ。


「協力してもらって、相談にも乗ってもらってるんだから……」


 俺をのけ者にしたくないというのが彼女の主張だろう。

 サラが俺を外したがってるのは違う理由からだと思うが。


「そのお世話になってる方を、わたしたちの事情に巻き込むつもりですか?」


 サラは困った顔をしてたしなめる。


「あ……」


 ティアは小さな声をあげてしゅんとしてしまう。

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