第149話「一歩踏み込む」

 サラから怪しまれている可能性について考慮しなかったわけじゃない。

 ジーナ相手に一回経験してたからな。


 だが、このタイミングでフェイントを入れてまで斬り込んでくるとは想定していなかった。


 ティアはオロオロとしていて、サラは刺すような視線を向けてきている。

 そしてジーナはさりげなく俺を守って戦える位置を変えた。


 俺の答えによっては戦闘がはじまる、一触即発状態になっている。


「何となく訳ありなんだろうなという予想しかしてないぞ?」


 決裂を避けたい俺としてはひとまずとぼけることにした。


「……と言うと?」


 サラは相変わらず冷たい態度のままで続きをうながす。


「大物貴族令嬢のサラが、居候っぽいティアのことを守ろうとしている節がある。どう見ても友情じゃ説明がつかないレベルでな」


 俺はサラの言動こそヒントになっていると指摘する。


「だからどっかの侯爵令嬢が何らかの事情で身を寄せてるのかな、と想像してるわけだ」

 

 そして微妙にポイントを外した。

 俺が持ってる情報でティアの正体が王女だと言い当てるほうがおかしいからな。


「なるほど、わたしこそがヒントだったのですね。勉強になりました。同時に恥じ入る気持ちでいっぱいです」


 ため息をついたサラから冷たい敵意が消え、平常の態度に戻る。


 ティアはホッとしたのは俺たちが決裂しなかったことと、自分の正体が見破られていなかった安堵の両方なんだろうな。


「やっぱりサラだけじゃ無理があるんだよ」


 とティアが親友を心配そうに見る。


「ですがやるしかありません」


 彼女は毅然とした顔で答えた。

 真面目で責任感が強く友達想いの性格って設定がよくわかる。


「俺にとってメリットがある範囲でなら、協力するのはかまわないが」


 と俺は申し出た。

 サラは予想していたのか驚かない。

 

 まあ一緒にダンジョンもぐる関係なんだし、今さらか。

 ティアのほうはちょっと期待しているまなざしだ。


「いまより関係を進めるのはお互い難しいと思いますが」


 ところがさすがサラは冷静で、耳の痛い指摘をしてくる。


「たしかにいま以上はちょっとリスクがあるな」


 ティアが政争で勝ってくれたら一気に楽になるが、そうなったら俺の力が不要になってもおかしくない。


 俺が選ぶべきなのは「ひそかに手を貸して、ティアが勝つ手助けをした」という実績作りだった。


「だが、たまにはリスクを冒さないと大きな果実は手に入らないと思わないか?」


 と俺は聞く。

 

「リスク次第、手に入る果実次第ですね」


 サラは迷わず即答する。

 もう少し何とかしたいという気持ちを持っていたようだ。


 じゃなかったら彼女のことだから、即座に拒否しただろう。

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