第148話「図書館にて」
学校でティアやサラに俺が話しかけるのはけっこうハードルが高い。
ジーナなら性別にまつわる問題はクリアできるが、それ以外の問題は難しい。
じゃあどうするかというと、彼女たちと出会った図書館が現時点で適切な答えとなるだろう。
ここはサラの家が所有しているだけに、サラやティアの味方となる人間がそれとなく配置されていたりする。
学校と比べればリスクはいちじるしく低下するのだ。
「ラスターくんが何かロンリーチルドレンと接触してるらしいってうわさが出ているけど、本当?」
ある日の放課後、本棚の前に立つ俺の横にやってきたティアが小声で話しかける。
「ああ」
俺が即答すると彼女は一瞬言葉に詰まった。
もしかして否定してほしかったのか?
いや、まさかな。
「俺たちが錬成師に依頼すると、どこに漏れるかわからないだろう?」
自分の考えを打ち消しながら、意図を説明する。
「なるほど。一から育てて囲い込めば、情報の流失を防げますね。その少女が秘密を守れるならですが」
ティアのすぐ後ろにいたサラが、彼女にかわって反応した。
言い方的にサティの存在自体すでに知っているとみてよさそうだな。
「俺に雇われているほうがメリットがあると、理解させる必要はあるな」
と答える。
サティはそこまで馬鹿じゃないし、信じた相手を気安く裏切る性格でもないが、サラたちにわかるはずがない。
彼女たちが納得するもっともらしい言い分を用意する必要がある。
「ロンリーチルドレンにそこまで理解できるのですか?」
「サラ」
サラの鋭い物言いをティアがあわててたしなめた。
この場合サラの懸念のほうが正しい。
反感を買いやすい言い方だとあわてるティアの善良さも同時に見える。
「まだわからないが、できたら儲けものだ。現状だとそんな感じだし、できればそっちに協力を求めたいところだな」
と俺はサラに言う。
腹を立てなかったのはこの発言を自然な流れでできるからだ。
サティを育てるためにはいずれ彼女たちの協力が必要となるので、どうやって提案するかという悩みが解消される。
「協力とは? まさか我が家で面倒見ろとは言いませんよね?」
もっとも現状サラは俺を無条件に信頼してないし、サティに対する好感度もゼロなので容易じゃない。
案の定、彼女は冷たい視線でけん制してくる。
彼女はティアのリスクをゼロにする、限りなく近づけることを己の使命だと思っているだろうから、当然の反応だ。
「信頼できると判断できたら、検討してもらいたいな」
俺はひるまずにサラを見返す。
「いつどんな錬成をしたのか。知られる可能性が低いほうがいいのは、反対じゃないはずだ」
「……そうですね」
サラは否定せずそっと息を吐く。
「我々の事情をまるで知ってるかのようですが、説明を求めてもいいですか?」
表情が一瞬やわらかくなったのはフェイクだったようだ。
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