第147話「変わったと思う」
放課後、ジーナをともなってサティに会いに行く。
彼女がいるだろう場所を適当にうろついていれば、彼女のほうから寄ってくる。
余計なことを言ったら彼女は腹を立てるだろう。
黙って機械的に接することを心がける。
「やってみてくれ」
と言うと、彼女はうなずいて錬成スキルを発動させ、石の剣を作り出した。
「どうだ?」
挑むような目をしながら差し出す。
何も言わなくてもジーナが手に取ってふるってみる。
「驚きました……消耗品としてなら、販売されていてもおかしくありません」
珍しく驚きをはっきりあらわにした表情で、俺に報告した。
「すごい成長速度だな」
正直、うれしい誤算である。
「どうだ?」
サティは得意そうに胸を張った。
見えないところで相当練習したんだな。
たぶん俺たちをこうやって驚かせたい一心で。
「すごいな。店頭の販売価格を払ってやれ」
と俺がジーナに指示を出す。
「御意。王国銅貨二十枚だ」
彼女は言いながら銅貨を二十枚サティを見せた。
「ど、銅貨二十枚!?」
サティは仰天して目を見開き、体を震わせた。
想定を超えた金額だったのだろう。
「だが、おまえはパンのほうがいいんじゃないか?」
とジーナはサティに聞く。
ああ、握らせずに見せたのはそういう理由か。
「……そうだな」
ショックがよっぽど大きいのか、サティは素直な返事をする。
「あるじ様、どうしましょう?」
ここでジーナは俺に判断をあおぐ。
どういう形式で報酬を払うのか、決めるのは俺ということだな。
俺という存在を立てる賢明なやり方だ。
「パンだけじゃ何だな。肉もつけてやってくれ」
と答える。
本当は野菜も食べてほしいんだが、この世界だと難しい。
野菜はサティたち低所得層が食べるものだからだ。
俺が野菜を食べろと彼女たちに言えば、いやがらせのたぐいだと誤解されるリスクが高すぎる。
「御意」
ジーナは指示に従い、パンと肉を買ってサティに与えた。
彼女はすこし呆然としていたが、我に返ってがつがつと食べる。
「すごい進歩だな。何とか取り込みを考えたくなった」
サティに聞かれないよう小声でジーナに言う。
「恐れ入りました」
彼女は俺が慧眼だと心底驚き、感服しているようだ。
「ジーナはどう思う?」
と聞いてみる。
彼女は忠臣だからこそ、俺をいさめるときはいさめてくれると期待してだ。
「取り込みは賛成ですが、現状だとリスクがまだ勝るかと」
ジーナは真剣な顔で答える。
まあ使い捨ての武器を作れる程度だと、そうなるよな。
これ以上成長するのか、ここで頭打ちになるのか。
彼女には判断できないわけだから。
「そうだな。前向きに検討しながらも様子見ということでどうだ?」
「それが適切かと存じます」
ジーナのサティを見る目がたしかに変わったと思う。
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