第145話「様子見」
最後に明日の落ち合い場所を決めて、サティとは別れた。
異国の皇子が彼女のような境遇の子と長時間話すのは、目立って仕方がない。
必要だからやるしかなかったのだが、終われば解散するのが賢いだろう。
「反対はしないんだな?」
ふたりきりになったところでジーナに聞く。
「お屋敷に連れ帰るおつもりでしたら、反対しておりました」
彼女は即答する。
やっぱりそうか。
ストリートチルドレンの印象は一般的にかなり悪い。
信用できる存在じゃないと決めつける者がほとんどなのだ。
だからこそサティのような人材が日の光を浴びないことも多い。
「まあ信頼はできないよな。すくなくといきなりは」
「御意」
とジーナはまた即答する。
サティだっていきなり俺のことは信用できないだろうしな。
だから最初から屋敷に連れて行くという選択肢はなかった。
「彼女の価値が高まれば何らかの手を考えたい。それならかまわないだろう?」
と俺は言う。
「たしかにあの子が錬成師としてひとかどの存在になるなら、リスクに見合った価値がございます」
ジーナは半信半疑の表情で答える。
「ただ、現状では楽観できないかと」
彼女のは忠言だろう。
「まあ根気が続いたりするとはかぎらないか」
と俺は言った。
ストリートチルドレンという存在に対する偏見を考えれば、彼女の懸念はもっともだ。
俺だってサティともうひとり以外には試そうとすら思わないだろう。
「それだけではございません。あの子たちは明日死んでいるかもしれません」
と彼女は淡々と指摘する。
「……そうだな」
俺は一瞬間を置いて返事をした。
彼女たちの取り巻く環境はかなり厳しい。
サティを選んだのは才能があるだけじゃない。
原作ストーリーがはじまるまで生き残っているからだった。
それを説明できるはずがないので、ほかにジーナを納得させる理論が必要になる。
「もっと俺が力をつけ環境を変えたとき、改めて考えればいいだろう。もしかしたらもっといい人材を雇えるチャンスがあるかもしれないからな」
と言えばジーナは大きくうなずいた。
「御意。あの子がダメだと決めつけるわけにはいけませんが、選択肢は複数あるほうが好ましいと存じます」
彼女はあくまでもリスク管理を念頭に置いているらしい。
「そうだな」
と俺は彼女の意見を肯定する。
一応サティよりも優秀な錬成師を仲間にするチャンスだって、もしかしたらあるかもしれない。
可能性は低いと思うが、ゼロだと決めつけることもないだろう。
「ひとまずあの子には課題を与えながら様子見してみよう」
「御意」
今度はジーナは反対しなかった。
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