第144話「対等」

「ジーナ、もうひとつパンを買ってやれ」


「かしこまりました」


 ジーナは指示に従ってパンを買ってきて、サティに渡す。

 サティの意識はすぐにパンに移り、彼女はがつがつと食べる。


「ジーナ、この子をうちで雇うのは難易度が高いか?」


「相当高いと存じます」


 ジーナに即答されてしまった。

 彼女ひとりしか屋敷にいないならどうとでもなるが、あの兄妹がいる。


 何か手を考える必要があるだろう。


 手っ取り早いのはサラの屋敷に置いてもらうことだが、サティの有用性を示さないと拒否される可能性が高い。


 ティアならサティの境遇に同情するだろうけど、単なる同情ならサティは反発するだけだ。


「へっ、てめーの世話にならねーよ」


 サティは強がっているが、ツンデレヒロインの一種と思えば可愛い。

 おまけに年下だし。


「強がるところも可愛いな」


「はあ!? きっも!!」


 ほめると狙い通り反発する。


 自分以外が敵という環境で暮らしているんだから、俺みたいなのはイレギュラーだ。


 何か下心があって優しくしている、と勘繰っているだろう。


「冗談はおいとくとして、俺が作ってもらいたい品を作ってくれるなら、一回でパンを二個やるぞ」


 と俺はサティに告げる。


「!!!」


 彼女はピクッと体を震わせて、せわしなく手を開閉させた。

 明らかに心が揺れている。


「これは対等な交換条件のはずだ」


 対等の部分に力を入れて俺は話す。

 サティは「施し」が一番嫌いのはずだからな。


 彼女が俺に対して出せるものがあり、こっちは見合った対価を払う。

 と形式を整えることで彼女を納得させることができる。


 原作で主人公がやっていたやり方だ。

 悪いけど、まねさせてもらう。


「対等……ならいいぜ」


 とサティはにやっと笑った。

 やっぱり対等という部分にこだわりがあるんだろう。

 

 ジーナは言いたいことがありそうなのに、クールな表情を維持している。

 相変わらずよくできた従者だ。


「じゃあ練習しておいてくれよ?」

 

 と言うと、サティは頬をふくらませる。


「そりゃないんじゃないの? どんなもん欲しいのか言ってくれねーと、練習しようがねーよ」


 彼女の抗議はもっともだったが、このタイミングで言われるなんて驚いたな。

 もうすこし知識と経験を得るまでは、黙って俺の指示に従うだけだと思っていた。


 ……無意識のうちに下に見ていたのか?

 これは反省しておこう。


「そうだな。今日やったことをひたすらくり返していれば、錬成スキルは向上していく。まずはスキルを向上させることだ」


 と話す。


「……わかった。レベルアップしてやるよ」


 サティは若干不満そうだったが、できないとは言わなかった。

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