第143話「錬成実験」
ジーナがパンを買って渡しても、サティは逃げなかった。
「アタシに何をさせるつもりだよ?」
パンを奪われまいと両手で抱え込みながら、彼女は俺をにらみながら聞く。
「まずお前の適性をたしかめたい。俺が探している素質を持っているかどうかをな」
と俺は答える。
持っているのはほぼ確実だが、それでもたしかめる必要はあった。
ジーナを納得させるためにも、原作との齟齬が生まれていないか調べるためにも。
「そんくらいならいいけど、何をさせられるんだ?」
サティは当たり前ながら警戒心をむき出しにしている。
「石と土を使って、錬成をしてもらう」
と俺は答えた。
「????」
そんなことして何になるのかとサティは表情に出している。
実のところこれが錬成適性を持っているのか、一番簡単にわかる方法だ。
「俺が欲しいものを錬成してくれるなら、食うのに困らなくなるぞ」
と俺が言うと、
「けっ、どうだかね」
とサティはそっぽを向く。
すこしも信頼されていないのは当たり前だし、新鮮ですらある。
ラスターという存在が相手になると、内心はともかくうわべでここまで反抗的な態度をとったりはしない。
「じゃあこうしよう。土と石で錬成をやってみせてくれたら、もうひとつパンをやろう」
「!!」
サティは勢いよくこっちを見て、それからあわててそっぽを向いた。
やっぱりこの子にとってはパンが食えるってのが大事なんだな。
「錬成スキルの適性があるなら、俺の指示に従うたびパンをやろう。それならお前にとって損はないだろう?」
原作で主人公が言った言葉をちょっとアレンジして言ってみる。
俺がいろいろやってる時点で、すでに原作どおりにはいかないだろうからかまわないだろう。
「……まあ一回やってみるだけならいいか」
サティはふてくされたような表情を維持しながら、パンをさっそく食べる。
そして指示どおりに土と石を手に持って、
「れんせーってどうやればいいんだ?」
と俺に聞く。
「そのまま錬成って言えばいい」
俺はそう答える。
錬成スキルを使えるかどうか調べるだけなら難しくない。
「わかった。れんせー」
サティは半信半疑の面持ちで気の抜けた声を出す。
石と土は錬成されて、石のかけらとでもいうべき物体に変化する。
「えっ?」
「まさか、いきなり当たりですか」
サティとジーナはそれぞれ驚きを見せた。
「俺もびっくりだよ」
とジーナに言ったがウソじゃない。
サティが錬成を成功させたことじゃなく、サティと出会えたことには驚いているからだ。
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