第135話「順調すぎて怖い」
「あなたはどう考えていますか? 現状を」
とサラが珍しく俺に話しかけてくる。
彼女がこのタイミングで振ってきたくらいだから、ダンジョン探索の件だろう。
「探索の進捗について、でいいか?」
念のため確認すると彼女はこくりとうなずき、
「言葉足らずでした。申し訳ありません」
と詫びる。
気にするなと首を横に振り、
「率直に言って順調すぎてこわいな」
と感想を言った。
「こわい、ですか?」
サラは虚を突かれたような表情で聞き返し、ティアはきょとんとする。
「なるほど、すばらしいですね」
カレンひとりが破顔して、褒めてくれた。
「王国の古い言葉に【好事魔多し】とあります。順調なときこそ落とし穴が待ちかまえているので、注意したほうがいいでしょう」
とこれはティアとサラのふたりに向けた言葉だろう。
「そっか。【勝っても装備の手入れをおこたるな】ってやつなのね」
とティアは納得する。
彼女は単純に知識が増えたと喜んでいるようだ。
あるいは聞いたことある教訓が該当することに、興奮しているのか。
「わたしとしたことが……浮かれていたようです」
それに対してサラはなぜ思い至らなかったのかと肩を落としている。
本来は自分がティアに忠告するべきだとでも思っているのかな。
真面目で責任感の強い彼女なら、そう考えそうだ。
「いいじゃないか。いまは取り返せる失敗なら。そのためのいまだろう」
トレーニングとか実地練習という単語は、彼女たちにとって適切なのか一瞬考えてしまったので、あやふやな言い方になってしまう。
「そうでした。ラスター殿には教わってばかりですね」
サラは俺の言葉を素直に受け取り、照れ笑いと苦笑いが混ざったような表情を浮かべる。
「ダンジョン探索は俺のほうが先にはじめたからな。たぶんそのせいだろう」
俺は笑って謙遜した。
将来、この世界の歴史に名を刻む大英雄もいまはまだ未熟なヒナドリ。
彼女たちがどう成長していくのか楽しみだったりする。
ほんのちょっとだが。
「ラスター殿はうわさとは大違いだね」
とティアは言ってしまったという顔をして、自分の口を手でおさえる。
明らかに失言を悔いている様子だったし、最初からとがめる気はない。
「おや、どんなうわさかな?」
ただからかってやろうといういたずら心は生まれたので、ちょっとつついてみる。
「帝国からこの時期にやってくるなんて、きっと訳ありに違いない、ですね。あとは根も葉もないうわさを面白おかしく流す、愚か者たちの虚言でしょう」
とサラがティアにかわって答えた。
「虚言」のほうが気になったのが、おそらく彼女たちは教えてくれないだろうな。
「まあそんなものだろ。帝国と変わらないな」
と俺は笑い飛ばす。
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