第125話「今日の敗者が明日も敗者とは限らない」

「ラスター殿、お時間があるときに我が家のパーティーにいらっしゃいませんか」


 放課後になってひとりの男子に誘われる。


「ええ。時間があえばぜひ。この国のことをいろいろと教えてください」


 腰を低くして頼むと、彼はプライドをくすぐられて優越感を持ったようだ。


「ええ。事件を解決に導いたラスター殿をお招きできる栄誉にあずかれる日を、楽しみにしておりますよ」


 別れて帰路についてそっと息をこぼす。

 正直かなり面倒くせえ。


 上手く立ち回らないと破滅フラグが立ちかねないのがラスターの立場だ。

 だから必要経費だと思っているが、面倒くさく感じる気持ちをゼロにはできない。


「とりあえず王国の現主流派との顔つなぎ程度は悪くない手ごたえだな」


 王都の屋敷に戻り、ジーナに淹れてもらったお茶を飲んで近況をつぶやく。


「御意。先日の事件もあって、あるじ様の評判は上々のようです」


 とそばにひかえるジーナが言う。


 授業の関係上男子同士、女子同士で別れるタイミングがあるときにでも情報収集しているのだろう。


 その点でぬかりがないキャラだから心強い。

 ほんと原作だと持ち腐れにされた宝だったよな、ジーナって。


「とは言え、顔をつなぐ対象は多いほうがいい。今日の敗者が明日も敗者のままだとはかぎらないからな」


 俺は暗にティアとサラのことに触れる。


 おそらくこのふたりは現状、サラの実家の力のおかげで存在していられる中立弱小か、あるいは負け組派閥という扱いになるだろう。


 なぜこのふたりに接近しているのか、ジーナの疑問を解消しておくに越したことはないと思うのだ。


 ジーナはよくできたメイドだから、俺の真意がわからなくても誠実な対応をすると思うが。


「御意」


 と彼女はうなずく。

 もしかしたら俺の変化が頭によぎったのかもしれないが、口には出さなかった。


「ジーナはティアとサラのふたりをどう思う?」


 と率直に聞いてみる。

 どういう印象を抱いているのか、知ってみたいという好奇心があった。


「そうですね。隠しごとがそれなりにありそうだなと感じております。レベルと実際の戦闘力が、明らかに不釣り合いですし」


 やっぱりそこは不審に思っているのか。


 この時系列だとまだ勇者や聖女といった称号はないはずだから、何と返せばいいのか迷う。


「同意見だな。もしかしたらあのふたりはこの国の固有スキルでも持っているのかもしれない」


 と言うとジーナはこくりとうなずく。


「あるじ様があのふたりと親睦をお考えになった理由、腑に落ちました」


「偶然だけどな」


 と俺は苦笑を返す。


 すくなくともあのタイミングであの場所で出会うなんて、計算してやったことじゃない。

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