第124話「リスクを減らしたら」
ティアたちとばかり仲良くしているのは外聞的にあまりよくない。
将来的にはともかく、現状で彼女たちはその他大勢程度の派閥でしかない。
王国現在での主流派との交流を放置はできないのだった。
サラはともかくティアはその点理解してくれそうな人柄だから、心置きなく男同士の付き合いをしよう。
もっとも相手は貴族男子だから、近くにメイドや執事がひかえているのだが。
「ラスター殿はすごいですね」
「信じられない体力です」
ボール投げ遊び(この世界にキャッチボールという単語がない)を終えた時、肩で息をしながら他の男子たちが言う。
一緒に遊んだメンツの中で平然としているのは俺だけだからだ。
俺はジーナに、他のメンツはそれぞれの付き人に汗を拭いてもらい、飲み物を用意してもらう。
「鍛えないと帝国では大変ですからね」
役立たずには冷淡で、肉親の情は期待するほうが間違っていると言い切ってもかまわない国だった。
ある程度評価は改善されたようだが、まだまだ油断なんてできない。
言ってからしまったと思ったので、あわてて言葉をつけ加える。
「この国を皮肉ったわけじゃないですよ」
説明しないとこの国はなまけてても平気だからいいよな、とニュアンスでの解釈が可能だっただろう。
「ええ、ラスター殿にそんな意図はないと承知しておりますよ」
とひとりが笑うが、目は笑っていない。
揚げ足取りに失敗したと考えていそうだな、と思っておくほうがいいだろう。
まだまだ気を許せるほどの関係じゃないもんな。
「誤解を招かずによかった。理解のある友人を持てたのは幸運でした」
「いえいえ。こちらこそラスター殿を友と呼べるのは幸運ですよ」
俺たちは笑顔と社交辞令を交わす。
外交とは握手しながら、見えないナイフで相手を刺すこと、なんてフレーズが原作ではあった。
それを個人レベルまで規模を縮小すればいまみたいなことになるんだろうな、と正直思う。
俺にそんなスキルが備わっていないだろうし、学ぶ機会があったわけじゃないのでなるべく減らしたいんだがなあ。
リスクを減らそうと思ったら、他のリスクが増えるとかどういうことだよ。
なんて言えばきっと誰かが「それが貴族社会だよ」と切り返してくるだろうな。
それくらいは予想できる。
教室へ戻る際にバラバラになったからか、
「親睦会は悪くない感じですね」
とジーナが話しかけてきた。
「変な動きをする奴はいたか?」
俺の問いに対しては、
「いいえ。誰も自然体でした」
と彼女は答える。
特におかしな者はなしと報告するための会話か。
律儀なことだ。
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