第122話「鉄鉱石と嘆きの砂」

 とりあえず誰にも聞かず、鉄鉱石と嘆きの砂を調べはじめたんだが、これは意外なほどあっさりと解決した。


 学校図書室でジーナとふたりで調べていたら、ティアに発見されたのだ。


「何を調べてるの? わたしにわかることかな?」


 隣にはいつも通りサラがいるものの、彼女は口を出してこない。

 ティアが俺たちに話しかけること自体は禁止するほどじゃないってことか。


 まあじゃなかったらダンジョン一緒にもぐれないよな。


 と納得したところで、ジーナがちらりとこちらを見てくる。


 「王国人たちになるべく借りを作りたくない」という話、彼女たちにも適用されるのか、という確認だろう。


「いや、ちょうどいい。ほしい素材があったんだが、ティアなら知っているかな?」


 俺は別にかまわないと判断する。


 長い付き合いになることを想定していたら、一方的にこちらが貸しを作りまくるのも健全とは言えないからだ。


 世話になっているけど、自分たちだって頼ってもらってる……くらいがいいバランスだと思う。


「うん、何かしら?」


「嘆きの砂と鉄鉱石なんだけど」


 ティアの問いに俺が欲しいものを伝える。


「鉄鉱石なら普通にお店で買えると思うわ」


 彼女がきょとんとして答える。


「ええ。どこにでもというわけではないですし、値段はすこし高めですけど」


 今まで黙っていたサラが彼女の斜め後ろから口をはさむ。


「ラスターたちなら買えたりするんじゃない?」


「まあダンジョンもぐってコツコツ稼いだからな」


 ティアの言葉に応えると、


「皇子様がコツコツ稼いでいるんだ」


 彼女は感心した顔になる。

 サラのほうはじっと観察するような視線だ。


「帝国は厳しいからな……王国の貴族様はどんな感じなんだ?」


 俺は自嘲を入れたあと、何食わぬ顔で聞いてみる。

 ティアは一瞬硬直してしまったが、


「私たちも似たようなものです。でなければもっとよい装備を支給してもらっています」


 サラが如才なく回答した。

 やっぱり彼女のほうが腹芸は上手いし手ごわいな。

 

「なるほど、世知辛いのはお互い様か」


 俺は気づかないふりでサラに笑いかける。


「ええ。意外なところで共通点が見つかるものですね」


 彼女もまた営業スマイルを返してきた。


「ところで嘆きの砂については何か知っている?」


 腹の探り合いをする理由はないので、彼女に次の問いを放つ。


「……私は知りませんが、カレンなら何か知っているかもしれません。問い合わせてみましょうか?」


「お願いしようかな」


 彼女が見せた厚意を無下にすることはできないので、頼むことにする。

 ひとまず一歩前進したと言えるだろう。

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