第120話「今日のところは」

 ティアは何か言いたそうな顔で口を開きかけ、一度サラを見る。

 小さくうなずいたのを確認してから視線を俺に戻して言った。


「あの、わたしたちと一緒にダンジョン探索してもらえませんか? 三人だけだと難しく、五人もいるならという理由で許可が出たので……」


「ラスター殿がいると私たちはダンジョンに行ける。私たちがいればラスター殿もダンジョンに入れる。ギブアンドテイクの関係ですね」


 とサラが横から口をはさむ。

 ティアには悪いが、彼女の説明のほうがわかりやすい。


「それでいくか」


 打算も裏表もない人間関係は美しいけど、それを期待しようにも俺たちはしがらみが多すぎる。


「そ、それでいいのかな?」


 ティアはちょっと複雑そうだ。


 ギブアンドテイクのビジネス的関係より、打算のない友情にあこがれる心境なんだろうか?


「いきなりお互いを信じろって言っても、難しいからな。抱えてるもの的に」


 と俺は答える。

 当事者はよくても、周囲が納得しないだろう。


 言外に言おうとしたことを、どうやらティアに伝わったらしく「ああ」と理解とあきらめが混ざった顔になる。


「お互い、大変そうだな」


「はは」


 俺が共感と同情を示すと、ティアは複雑そうな笑い声を立てた。


「今日のところは第三階層の探索を終えて、一度引き上げないか」


 と提案すると美少女たちの視線が集まる。


「その心は?」


 カレンが代表して俺の真意を確認してきた。


「ポーションなどを買って、明日は第四よりも上の階層に挑戦する」

 

 と言うとティアとサラの二人にかすかな緊張感が走る。


 ジーナやカレンは俺が何を言い出すのか、ある程度予想していたように見受けられた。


「第四階層くらいまでならポーションなしでも、何とかなってしまいそうな面子ではありますが、準備を怠らないほうがいいでしょうね」

 

 とカレンが賛成する。

 俺とジーナだけならいざとなったら逃げる手段はあるが、彼女たちはないしな。


「わかった。それでいこう」


 ティアはこっちをじっと見ながら大きくうなずく。


「そうですね。ダンジョン探索はもっと大変かと思っていましたが、そうでもなくて慢心してしまいそうです。気を引き締めねば」


 サラは優等生な発言をしている。


 ダンジョン探索が簡単なものだと思いかけていたことを認め、人に指摘される前に反省するのはなんとも彼女らしかった。


「私にも異論はありません」


 最後になったジーナも賛成する。


「決まりだな」


「ええ」


 俺とカレンは視線をかわしてうなずく。

 さて、第三階層から出口まで引き返さなきゃいけない。


 ダンジョン探索で面倒な部分の一つだが、アイテムを手に入れるまでは仕方ないな。

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