第117話「距離感」

「大丈夫かしら」


 不安を口にしたのはティアじゃなくてサラのほうだった。

 彼女の場合は不安というよりは慎重なだけだと思うが。


「大丈夫じゃない? 私たち二人以外はすごく強いから」


 対するティアは楽観的な意見を口にする。

 

「それはそうだけど」


 サラは言いよどむ。

 俺たちは信頼できるかどうかという点だろうか。


 それとも緊急時の対応力を懸念しているのだろうか。

 彼女の性格から推測するなら、両方というパターンが一番ありえそうだ。


 俺は羽のペンダントを持ってきてはいるものの、五人だけじゃ拉致された場所から脱出したあのバグ技は使えない。


 五人がかりで勝てない敵なんて最上階かその付近じゃないとまず出てこないと思うが、さてどうするか。


 視線でカレンに問いかける。

 

「お二人は何があっても私がお守りします。ラスター殿とジーナ殿もある程度はお二人のために戦ってくれるかと」


 カレンはサラにそう言った。


「そりゃ女の子を見捨てて自分だけ逃げだしたとなると、俺の名誉に関わるからな」


 と俺はいやそうな顔を作って答える。


 ティアが死ぬことはまずないし、その場合彼女からの信頼を失うだけの最悪の結果になるだろう。


 それだけは避けたいというのが本音である。


「あるじ様のご意思に従います。あるじ様が危機にならないかぎりは、ですが」


 ジーナは淡々と話すが、言わなくてもいい後半の部分を言語化したのは彼女が律儀な性格だからだろう。


 あとは俺がティアたちと仲良くしていきたいと思っていることを、うすうす感づいているかもしれない。

 

 結局俺が本来のラスターとは別人ではないかと疑ったのは、彼女一人だけだからな。


 単純にラスターに関心があった人が他にいないってだけじゃなくて、そもそも彼女の観察眼や直感が優れているというのもありそうだ。


「もちろん、土壇場になったら私もラスター殿よりもティア殿とサラ殿を優先させていただきます」


 ジーナの発言に応えるようにカレンが言う。

 ぎょっとしたティアが、あせったようにこちらに視線を向ける。


「ああ、そうだろう。とりつくろう必要もない。あらかじめはっきりさせておいたほうが、いざという時混乱しなくてもいいはずだ」


 俺は気にしていないと明言する。

 

「もっとも余裕があれば助けるし、助けてもらえたらありがたいというのが本音だが」


 あんまり余裕を見せてもかえってまずいかもしれないと思い、冗談めかして弱気なところも見せた。


「も、もちろん!」


 最初に反応したのはティアで、言ってからハッとなる。


「ティア」


 たしなめるような声を出したのは言うまでもなくサラだ。


「この場合、助けるのはカレンなのよ?」


 彼女の指摘は正しい。


「お二人が大丈夫そうなら、ラスター殿たちを助けるのに異論はありません」


 カレンが優しい微笑で言ったので話はこれで終わりだな。

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